アセムの矛盾 | ナノ

第二の喇叭


 いい加減、と切り出してハザマさんは何かの言葉を飲み込んだようだった。息が止まる。息が詰まる。精一杯止めたせいで溜め息みたいなものを吐いてしまったのをハザマさんは、何か勘違いしたようだった。

「腕、離してください」
「離しません」
「わたし真面目なハザマさんは好きじゃない」
「私はどんなミョウジも愛していますよ……あ」
「あ」

 そこまで言ってハザマさんは、人間みたいに(人間だろうが)紅くなった顔を両手で抑えて、マンガみたいに恥ずかしがりだした。なんだかこの人を見てると愉快だなあとぼんやり考えてしまう。ばっかみたい、わたしの方がよっぽど愉快な人間なのに。

「おもしろい」
「私、フラれたんですか」
「今のレリウスさんの真似です」
「ミョウジ、私フラれたんですか」
「え、本気で言ってるの?」
「……上司に対してその物言いはなんですか」

 ふうー、と、大袈裟な溜め息を吐いて、ハザマさんが背伸びをする。こんなのは私らしくありませんね、と笑う姿はなんとなく痛ましくて少しだけこんなハザマさんもいいかもしれないと思った。というところで普段はひと段落がつくのだ。

「ミョウジを引き取ってどれぐらいが経ちますか。我ながら気色悪い話ですが、私は、ミョウジが好きなんですよ」
「わたしもハザマさんのこと好きですよ。たまに腹立つけど」
「そういった好きではないことぐらいお判りでしょう」
「……うん」
「私はちゃんとミョウジの事を愛していますから」
「な、恥ずかしいこと言わないでください! 死ぬ!」
「なら絶命するつもりで質問に答えてください。ナマエは私のことが好きですか?」

 ハザマさんがわたしを押し倒す。ベッドでもなくてソファの上で、角が頭にぶつかって痛かった。けれど何故だか胸が痛い。わたしもハザマさんも同じことで悩んでいたのかもしれない。
 目を閉じなければいけないのだろうか。所在無くハザマさんの睫毛だとかを眺めていると、恨めしそうに金色の目玉が覗いて、こういう時は目を瞑りなさいと指示をされた。わたしはハザマさんのお手伝いさんだ。世間では部下と言うが、わたしはここに来た時から、ハザマさんをお手伝いすることが役目みたいに生きてきた。指示には従うものだ。

「好、き……やき」
「すき焼き?」
「好き」

 距離が近い。ハザマさんの冷たい体温だとか、尖った息だとかをこんなに近くに感じたのは生涯初めてだ。ハザマさんが、壊れ物でも扱うように髪を撫でる。その感覚がどうしてか気色悪くて少し笑ってしまった。

「……笑わないで下さい。これでも必死なんです」
「あはは、はは、でも、なんかオカシクって」
「確かにキャラじゃありませんね」
「でも、なんか、今なら言えます。わたしハザマさんのことが好きです」

 今度は驚く程すんなりと本心がついてでた。そうだ、わたしはいつからかハザマさんが好きで、ただなんとなく神様に悪い気がして(神様とはもちろんユウキさんのことだった。当然信仰のもとの申し訳なさなのだろうが、どこから湧いてでてくる感情かは知る由もない)押し殺してきた気持ちが、ぐんぐんと込み上げてきた。
 ハザマさんは瞬間バツの悪そうな顔をしたけれど、すぐにキレイな笑顔に戻って、わたしに口付けた。





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