アセムの矛盾 | ナノ

第一の喇叭


 今日ハザマさんは様子が違った。いやに真剣で、目なんてきちんと開いている。まぶたを摘もうと立ち上がったら手を振り払われた。

「それ結構痛いんですよ。二度も同じ手は通用しません」
「それはわたしもです。だからフラれるんよー可哀想」
「ミョウジはキスをしたことはありますか?」
「ば、馬鹿にすんなよ! 毎晩寝る前されてたわ! 親に!」
「だからすぐ虫歯になるんですね」

 自然とムキになってしまう。この人はいつも、人のことを笑いものにしたり、白痴扱いしたり、かと思ったら手のひらを返したように優しくなったりとせわしないのだ。わたしはいつも振り回されて、嘲られて、それでも離れられないでいる(それは単に居場所が無いからに違いないのだ。士官学校だってコネ入学のコネ卒業である)。

「知っていますか? 女性は愛するより愛された方が輝くんですよ」
「神は?」
「そんなものいません。あなたはいつも、近くにあるものと向き合おうともしないで見えないものばかり追い掛けて、情けなくなることこの上ありません」
「でもユウキさんはわたしを助けてくれましたよ。多分朝も起こしてくれる。夜は寝かしつけてくれる」
「それなら私が毎日しているはずですが。学校を卒業してからは一人で寝てくれるようになって非常に助かっています」
「ナマエ=ミョウジは子供じゃないから」
「子供ですよ。だから大人にして差し上げようとしているのに」

 ハザマさんの手を払いのけられなかった。頬に添えられた手は冷たくて、どんどんわたしの温度を奪っていく。距離が縮まるのが怖くて仕方ない。

「今日のハザマさん、変」
「そうですね」
「嘘、いつもなら」

 そうだ、いつもなら、ミョウジ程ではありませんよ、とか言って飴でも投げて、それをわたしが拾って食べておしまいだ。なのにハザマさんは、いやに真剣でいる。嫌になる程真顔だ。開いたままの目は伏せられないで、いつまでもわたしを捕えて離さない。わたしばっかりが目を逸らしたり、現実逃避をしてみたりするけれど、もしかしたらいい加減ハザマさんを怒らせてしまったのかもしれない。

「怒ってませんから。ミョウジ、これから一つ真面目な話をさせて下さいませんか」

 はい、と返事をしたわたしにハザマさんはいつものように笑った。これが安心するのだ。安心するのにわたしの気持は、どうしたものか収まらないでいる。





アセムの矛盾
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -