現実において、事実はいつも残酷でどうにもならない悔しさが絶望となっては襲いかかる。わたしの心臓はすべてを受け止めるには小さ過ぎた。
「ナマエ=ミョウジと言いましたね。あなたの身柄は私が引き取ります。これからは私の為に生きてください」
「あんた、誰……」
「今のあなたには私が誰かなんて構わないでしょうが」
思い返せばあれは神の手だった。傷だらけの腕に握り締めたガラス片を、彼は取り上げて瓦礫の山に放り投げたのである。
「珍しく神妙な面持ちでどうしたんですか。馬鹿は馬鹿らしくへらへら笑っている方がお似合いですよ」
「夢見が悪くて」
「ミョウジは寝ても覚めても夢を見ているような脳足りんじゃありませんか。短い足でさぞ不便でしょうがさっさと歩いて下さい」
「短足で悪う御座いましたー」
やっぱり違う。この人は神なんて崇高なものじゃない。わたしの神はもっとこう、緑で目が大きくて視界が広いんだ。
ハザマさんに遅れを取らないように駆け足で追いかけると、足元で何かが砕ける音がした。キラキラ光を反射している。人の骨じゃないことだけ確認してわたしたちはイブキドを後にした。