子供の遊び | ナノ
 ミョウジ中尉との唯一の繋がりが絶たれてからも自分の生活はさして変わるわけではなく、いつも通りの張り詰めた日々を繰り返している。思い返せばただの気の迷いだった、ということにしてたまに襲いかかる虚無感を押し殺す。失恋した女性に付け入るのもいいかもしれないが、そうまでする自分の姿を客観視してみるとなんとも惨めだった。何故か、自分だけはうまくいくのではないかと思っている。テルミさんもレリウスも、そして自分自身だって今まで事が最終的に見て最悪の結果に至ったことはない。失敗や挫折を知らず、失うものが無いと人は成長しないとはよく言ったものである。

「一度失敗してみるのも手かもしれませんね」

 彼女と同じ銘柄の煙草を買った。喫煙所に通うこと数日、未だミョウジ中尉の影はない。先日すれ違った時、彼女からはいつかの甘い匂いしかしなかったことから、やはり、あれは私を払い除ける為の儀式だったのではないのかとすら考える。
 紫煙は通気口に吸い込まれていく。あの部屋は空気の流れが悪かった。あんなところにいたから自分は堂々巡りにはまってしまったのだ。
しかし何がいいのかわからない。半分以上残る煙草の火を消していると、ドアが荒々しく開いた。

「ハザマさん!」
「おや、ヴァーミリオン少尉。そんなに慌ててどうなさったんですか?」
「女子に何か変なこと話しませんでした?」
「何かって、何も話していませんが。ああ、キサラギ少佐は女性に興味がない、とは話したかもしれませんね」
「やっぱり……。少佐が男色って噂が広まってるんですよ」
「あながち間違えでもないと思いますがね。キサラギ少佐自身が女が好きだと話しているところもその逆も耳にしたことはありませんし」
「それは、その……」

 我ながら詭弁であるが、ヴァーミリオンの持つ本題はそれとは違うように見えた。そしてそれが私の望む話題である可能性が少なからずある。

「ナマエと同じ煙草ですね」
「ナマエ? 誰の事でしたっけ」
「ミョウジです」

 ノエル=ヴァーミリオンと彼女は親睦があったのだろうか。しかし絶たれたと思われた糸が繋がっていることは、その事柄に問わず興味深いものであった。

「たまたまですよ」
「ハザマさんって……違ったら申し訳ないんですが、その……」
「はい?」
「ナマエのこと好きですよね」
「は?」

 言葉が出てこない。古今東西女性というものはこういった話題を好むというが、しかし、あまりに察しが良すぎるのではないか。

「……違いました? すみません!」
「いえ、謝らなくても」
「ナマエ先週まで部屋に軟禁状態だったじゃありませんか? たまに会ったらハザマさんの話ばっかりで、ハザマさんも、あの子男の人に冷たいのによく行くな、て思って……でも、違うんだったらよかったです」
「どういう意味ですか?」
「異動になるらしいので。あっ、私仕事があるので失礼します!」

 敬礼して走り去るヴァーミリオンの背中が遠くなっていく。検討すべき点が多過ぎて何を考えればいいのかわからない、何も考えない方がいいのかもしれない。

「一度失敗してみるのも手かもしれない」

 失うものが何もない方が大胆な策に出られるものだ。一ヶ月通い詰めた場所に彼女がいるならば、自分の感情とやらを試してみるのも悪くはない。

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