「あの、今日オフなので……」
「知ったことではありません。手当はきっちりつけますから、わかりましたね」
「でもわたし」
「わかりましたね?」
お代を店員さんに押し付けて、わたしはまたもずるずる引きずられてしまったのである。いつまでも首根っこを掴まれていたら窒息死してしまいそうなので、ハザマさんの歩くペースに合わせて小走りした。傍目にはどう見えているだろう。少なくとも恋人はないな(無い無い)。
「呑気に休養とはいいご身分ですね」
「ハザマさんこそ、毎日……」
「毎日、何ですか?」
振り向いた顔が近い。急に止まられて背中に激突し鼻を抑える。鼻血は出てなかった。そんなところ見られたら相手がハザマさんでなくともおしまいだ。
「いえ、別に」
「ミョウジ少尉は私のことがさぞお嫌いなようなのでね」
「えっ、そんなことは」
「私だって人肌恋しくなることはあるんですよ。たとえば本命から嫌味な上官扱いされている時とか」
「マコト?」
「違います。……お喋りが過ぎましたね。これから用事がありますので、夜には戻ります。よろしくお願いしますね」
「一時間もあれば終わりますよ」
「はあ……。本当に、私はどこまで貴女に嫌われているのでしょうか。いつものお礼に夕飯でもと思っていたのですが残念です。それでは」
ハザマさんから置いて行かれる。なんか頭が混乱して痛くなってきた。鼻と頭を抑える変な体勢になりながら、今しかないと渾身の勇気で引き止めた。
「ぜ、是非ご一緒に!」
わたしは馬鹿だ。