マジカルシャイニング死罪 | ナノ

猫の毛に暗示

「ナマエー、また猫が出たってハザマ大尉が呼んでるよ」
「あーもうこれで三日連続だよ。本職雇えって言っててくれない?」
「ナマエじゃなきゃダメなんだってよ?」

 マコトがニヤニヤ笑いながら手招きしている。部屋にはいつ見ても同じキジ猫がくつろいでいた。

「ハザマ大尉、マタタビでも出てるんじゃないかな? じゃあねー」
「待って。最近マコトがしょっちゅうカカ族の村に行ってるって噂聞いたんだけど」
「いやだなあ、諜報活動だよ諜報活動! じゃ、頑張って!」

 ご機嫌に尻尾を振りながらマコトはスキップで出掛けて行った。このことハザマさんに言ったら怒るだろうなあ。正直悪い気はしないけれど。
 今日は仮眠室にも出たとかで掃除場所が多い。ベッド際にコンドームの袋が散らばっていたけれど、ここは他の衛士も使うんだ。違う違う。

「ミョウジ少尉ー」
「まだですって。今呼ばれたとこなんですよ」
「部署移動しませんか? 行動が遅いんですよ」
「無茶言わないでください。まだ配属されて三ヶ月ですよ」
「あ、先日のファイルありがとうございました。有効活用させていただいていますので」
「早くどこかに行ってください。またくしゃみ出ても知りませんよ」

 猫の毛一本落とさず掃除するのがどれほど大変か身を持って分からせてやろうか、とも思ったけれど毎度目と鼻を真っ赤にしている姿を見ているのでそうも言えない。
 カーペットにガムテープを貼り付けていると、緑色でない髪の毛が取れた。昨夜彼は帰っていないというが、これは。自分を騙すのにももはや限界だった。

「ハザマさん!」
「おや、終わったんですか? 早かったですね」
「そうじゃなくて、その……いや、なんでもありません。終わったらお呼びしますんで」
「完璧にお願いしますよ」

 ハザマさんの顔を見て正気を取り戻す。わたしはこの人のなんでもないんだ。彼に特定の恋人がいるなんて話は聞かないから、たとえ誰と寝ようが咎められる義理もないのだ。
 自然と涙と鼻水が止まらなくなった。わたしは猫アレルギーだ猫アレルギーだ、言い聞かせないとやってられない。

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