猫がいた。耳が立っていて、尻尾が長くて、目はこれでもかというほど大きい。端正な縞模様の毛並みを繕っている。猫がいた。
「そういうわけで、ルームキーパーミョウジです」
「はあ、ハザマ大尉って人使い荒いよね。わざわざ他の部署から呼び出さなくてもいいだろうに」
「マコトは尻尾が長いからダメみたいだよ。ほら、猫ってすぐ飛び掛かるじゃん?」
「あー。そういう意味ではあたしも猫苦手かも。可愛いんだけどねー」
そういってマコトはひらひらと手を振って出かけて行った。あーあ、あの部屋広いから掃除大変なんだよなあ。
猫ちゃんを安全な場所(タオカカちゃん達なら仲良くしてくれるはずだ)に避難させて、早速掃除を始める。確かわたしは術式舞台に配属されたはずなのに、ろくに青い制服を翻した記憶がない。
「ミョウジ少尉、まだですか?」
「近寄らない方がいいですよ。今からなんで」
「さっさとしてくださいよ。私、あなたと違って忙しいんですから」
マスクが意味をなさず、クシャミを連発しながらハザマさんは行ってしまった。首筋に見えた赤い斑点はキット蕁麻疹だ。アレルギー体質は気の毒だなあ。
結局おせっかい精神が働き、猫とは関係のないデスクや窓まで磨いてしまった。資料を払っていると女性の名前と電話番号のメモがひらひらと何枚か落ちて行ったけれど、諜報部の仕事に重要な書類なのだろう。そうに違いない。
すべてを綺麗にファイリングして机の上に置いてルームキーパーの仕事を終える。戻ってきたハザマさんは服が乱れていた。シャワーを浴びたんだろう、多分。