FINAL
釈然としない。亡骸を蹴飛ばして、悲鳴は聞こえなかった。この男を殺した。何日か経った。わたしはあまり自由にはなっていない。押し寄せる仕事の波だとか、よくわからない声だとかに毎日鬱憤を募らせている。
「よぉ、俺様がいなくなって楽しいかー?」
「少しも」
「やっぱテメェは一人じゃ生きられねぇんだよ。バーカ」
「馬鹿はお前だ」
「ねえねえ、殺した筈の奴に話し掛けられて今どんな気持ちー?」
「わたしに話し掛けないでよ」
「つっても俺様お喋りだし? まだ話し足んねーよ」
「黙って」
一人でいても、誰かといても、頭の中であの男の声がループする。ループしてループして、結局何も変わらない。煙草の本数が増えた。これではあいつの思う壺だ。
「お仕事お疲れ様ー。毎日毎日意味の無ェ書類整理するのってどんな感じ?」
「……」
「おいおい無視かよ。テメェ如きが俺様のこと無視してんじゃねーよ」
「もうお前のことなんて怖くないから」
身体が無い声だけがわたしを掻き乱す。幻聴だ。薬を飲んでも何も治らない。寝ても冷めても、あの緑色が脳裏にちらついている。幻聴だ。本当は聞こえない筈の声がわたしに何度も話し掛ける。
「こんな筈じゃなかったって顔してんな。俺本当はナマエちゃんのこと好きだったんだぜ?」
「嘘ばっかり!」
「マジだよ。何回も言わせんな、ナマエ、愛してる」
「黙って!」
「ナマエ、次は幸せにしてやるよ」
「お願い」
「ナマエ」
「わたしに話しかけないでよ……」