君に痛み分け | ナノ
 ハザマさんはいなくなってしまったってことをわたしは知っている。この人は本物のユウキ=テルミで、悪い魔法でハザマさんは身体を乗っ取られてしまったんだ。
 ということを切なく語ったら、テルミさんはそうじゃないけど説明するのが面倒臭いと残して不貞腐れてしまう。どうやらテルミさんは、今の状況はマズイけれど結構楽しんでいるようだった。そりゃああの秘密主義者が情報を開けっぴろげにしているんだ。マズくないわけがないけれど、お喋りな自分が勝手に話しているだけなんだから不合理である。
人間というのは案外適応力が高くて、わたしもこの愉快な上司に順応しかけている。ただ家に帰るとこの間の笑顔を思い出して変な気持ちになった。

「わたし馬鹿かもしれません」
「言われなくても知ってるわ」
「だって、テルミさんとハザマさんが違う人って思い込んじゃってるんです。双子ですか?」
「なわけ無ェだろ。これが俺様の本性で、テメェが好きだったのはよそ行きの造りモンだったってだけな」
「でもなんか違う」
「最近は名前呼び間違えねーよな。そんな感じで段々慣れていくから安心しろや」

 言われてみれば、テルミさんを見てハザマさんの名前を呼ばなくなっている。安心しろと言われて逆に不安になってしまった。わたしはハザマさんのことが好きだった。なのに最近、ハザマさんがどんな口調で話していたか少しずつ思い出せなくなっている。余所行きの造り物に惹かれていた自分が心底アホらしくもなる。

「あのさぁ、そんなにアレがいいわけ? 見た目なんて変わんねぇじゃん。それとも敬語でも使えば満足すんの?」
「サンプル!」
「ナマエさん」
「は、はい」
「諦めてください」

 目を細めたその表情は、しかしどうしてハザマさんには似ても似つかなかった。ただあのテルミさんが敬語なんて使っていることが面白くて笑ってしまった。

「んだよ、からかい甲斐が無いつまんねー奴」
「いっつもイジメて楽しんでるじゃないですか!」
「あ、バレてた?」
「当たり前です! もう敬語禁止!」
「じゃあナマエちゃんもな」
「いや、それは上司ですし」
「今から敬語使ったら飯奢り」
「高過ぎま……高過ぎ!」
「食い物がかかるとマジになるのな」
「テルミさん馬鹿みたいに食べるしお金がいくらあっても足りないもん」
「順応早過ぎんだろ」

「敬意があるのは評価します」


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -