君に痛み分け | ナノ
 イカルガの土地は冷たい。死んでしまった都市にあたたかみなんて求める方がお門違いなのだけれど、いかんせんここの活気を知っているから悲しくなるのだ。

「そういえばお前、ここの出身だったな」
「話しましたっけ」
「昔言ってただろ。ほら、初めてここ来たとき」
「そんな前のこと覚えてるなんて意外です」
「記憶力には自信あんだよ」

 生き返りかけている土の、草を引き抜いて投げ捨てながらテルミさんは遠くを眺めている。何もいない地平線は虚しいだけだ。

「問題ないみたいだから早く帰りませんか?」
「あ、それ同じこと考えてたわ」
「テルミさんって変わりませんね」
「あ? 変わるわけねぇだろ。たかだか入れ替わったぐらいで」
「入れ……?」
「細けェとこ気にすんなグズ女」

 あの時のハザマさんも、こうやって屈んでぼんやりと向こうを見ていた。それから風が吹いて、飛んだ帽子を受け止めたわたしに優しく笑いかけて、そうだ。

「これ、激務の上司にプレゼントです」
「帽子?」
「ハザマさ……テルミさんにはこの帽子ですから!」
「あー、確かに諜報部ハザマ大尉には帽子だな」
「あ」

 渡した帽子をテルミさんはフリスビーみたいに空の向こうに投げてしまった。草より遠くまで舞って、カラスみたいになったそれが小さくなっていく。ぼとり。取りに行くのも面倒くさい場所でカラスが死んだ。

「あーあ、折角似てるの探したのに。刺繍ついてるけど」
「こっちは折角セットしてんだよ。かっこいいだろ? ナマエちゃん惚れちゃう?」
「テルミさんやっぱり変わりました」
「うるせえわ」

「帽子はトレードマークではありません」


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