君に痛み分け | ナノ
「え、テルミさん」
「ナマエ……さん」
「テルミさん?」
「申し訳ありません、夕飯でも、時間でも、お金でも何でも差し上げますから」
「あの、わけわかんない……もしかしてわたしのことからかうために休日出勤とか、あっ」

 彼は後ろから、長い腕と高い身長ですっぽりわたしを包み込んだ。こんなことする人をわたしは知らなかった。

「ナマエさんは私の事がお嫌いですか」
「え、テルミ、さん、からかうのはやめてって。何したいのかわかんない」
「ハザマです」
「は、ハザマさん?」
「察しの悪いあなたでもお気付きかとは思いますが、私はナマエさんが好きです」

 わたしを置いて行って、ハザマさんは何かから(たとえばテルミさんから)解放されたみたいによく喋った。何を話しているかなんて頭に入ってこない。好きですだけが頭の中でぐるぐるぐるぐる、こんな状況で聞かされてどうすればいいのかわからなかった。
 何度も、今だって諦めようとして、やっと諦めがつきかけたのに、やっぱりこの人は意地悪だ。
 振り向いた時テルミさんは帽子を被っていた。魔法使いのように見えた。多分魔法だ、それか帰ってすぐに寝たわたしの夢だ。そう思い込むと不思議と言いたい言葉が口から漏れていった。

「わたしも好き」
「ナマエさん?」
「わたしもハザマさんが好きです、好きです! 二重人格みたいにわけわかんなくなっても、そのわけわかんない方が結構面白くても、やっぱりわたしはハザマさんが好きです!」

 ハザマさんは優しく笑った。テルミさんみたいな笑顔とは全く違って、同じ顔なのに懐かしい感覚がした。

「私の全てを受け入れて下さいますか」
「はい」
「テルミさんのことだけではありません」
「はい」
「私結構嫉妬深いのですが、それでも嫌になりませんか」
「はい」
「ナマエさん、ずっとこうしたかった」

 ハザマさんはわたしを抱き締めて、頬に軽いキスをした。多分わたしの涙は目から零れて、ハザマさんの唇を濡らしてしまっただろう。こんなことをするハザマさんは知らなかったけれど、そんな彼を見るのはもしかしたらとても尊いものなのかもしれないと少し思うのだ。

「あなたが今でも好きなのです 」


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