「えー! 今月ヤバいのに!」
「俺様に敵うと思うなっての。やっとテメェから解放されるわ」
「レリウス大佐のところに連れて行くなんて卑怯だ!」
テルミさんは姑息だった。レリウス大佐の旧知の仲であるのをいいことに、あろうことかわたしを大佐の前に引っ張り出したのだ。
あの技術大佐から話し掛けられて頷いて誤魔化せるわけもなかった。ニヤニヤ笑うテルミさんを、レリウス大佐は怪訝そうに眺めていた。しかしこの人は何者なんだ。
「きっちり16回分で解放してやったんだよ。少しは感謝しろ」
「半月分食費が浮く予定で化粧品買い溜めしたのに……」
「俺様を出し抜けると思ったナマエちゃんが甘ェんだよ」
痛み分けだ。テルミさんも新しいギターを買ったとか言っていた。そもそもの財力が違う気がするけれど、ここからは一層張り詰めた勝負になる。
「敬語で減点なら暴言で1点加点とかにしない?」
「いいぜ? 貧乳、干物女、仕事の遅ェ給料泥棒」
「やっぱりなしで」
「ばーか」
テルミさんは一枚も二枚も三枚も上手であることを忘れていた。できるだけ無口にクールに生きていこう。いや無理だ、上司の饒舌がうつってわたしもおしゃべりになってしまった。
「んじゃ、俺様帰るわ」
「帰る? 珍しい」
「たまには自分家で寝てェし。ナマエちゃんも気を付けて帰れよ」
「あ、うん……」
こんな時間の一人の帰り道はなんとなく物足りなかった。ここのところ粗探しをするように躍起になっていたから、夕飯といえばテルミさんと一緒というのが板についてきていたのだ。干物女とか、結構的を射ている。
「直帰しよう」
服屋さんにでも寄って帰る計画を頭の中で消し去った。お財布は薄っぺらい。
わたしが淋しくあるように、テルミさんもそうだったらいいのにとか少し考えて、自分は馬鹿だなあと再確認する。あれから三ヶ月が経った。夢はたまに見る。
「うわー、カラッカラじゃん」
長らく使っていない台所に立ってみたはいいけれど、冷蔵庫は空っぽだった。コンビニに行こう。何もない。