君に痛み分け | ナノ
 考えてみればわたし達は上手いこと回っている。敬語禁止令なんて下らないお題は絶対的で、しかしわたしにとって圧倒的不利ということもなかった。
 ある時はわたしがポロリと敬語を零して、しかし挽回するようにテルミさんの前には部下が現れる。最初こそ余所行きのテルミさんに合わせておあいこになっていたけれど、最近わたしは何を振られてもニコニコ笑いながら頷いておけばカウントが増えないことを覚えた。
 今日もそうだ。諜報部中尉に仕事の報告を受けるテルミさんは、必死そうにわたしに話題を向ける。けれどわたしはニコニコ笑顔で相槌を打つだけだ。テルミさんにしか見えない角度で四、五、六と指を折るごとに彼は作り笑いで隠せないような苛立ちを見せて、その汗に勝者の気分を味わうのだ。

「それでは、下がってよろしいですよ」
「ああ、そういえば先日の件ですが」
「そういった話はその日のうちにして頂けませんかねぇ」
「申し訳ありません!」
「それでは後ほど書面にて。ご苦労」

 中尉が部屋を出て、ドアが閉まった途端テルミさんは帽子を投げ捨てて前髪をかき上げた。鋭い目付きには諦めも含まれているように見える。

「21回」
「テメェのと差っ引いて16回か。クッソ、この賭けやめねぇ?」
「言い始めたのってそっちでしょー」

 余程の負けず嫌いな性格は見ていて面白かった。それでも衛士への態度は変えないんだから見上げたものである。
 最近仕事が楽しい。テルミさんが面白くて、それと同時に少し寂しい気持ちも芽生えたけれど気付かないフリをした。

「悔しくなんかありません」


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