短編 | ナノ

雨音の中に昔好きだったピアノの曲が融け込むようにボリュームを絞った。色んな思い出も水に滲んで、そのまんまなくなってしまえばいいのに雨が止んだら小汚く心臓に貼り付いているのだ。こんな風に、なる筈じゃなかったのになあ。指が勝手に動いてしまう。美しい旋律も全部ソラシドレミとカタカナで歌うんだから、煩くって、スッカリ眠気は飛んでしまった。
けれどわたしを抱きかかえたまんま目を覚まさないハザマさんを起こすわけにはいかないから、喉の渇きとかに気付いても身体を固めている。涙だけボロボロ沸いて出てきて、なんで、とか戻して、とかひたすら考えてしまうのだ。ハザマさんのことを愛していないわけではないのに、心から大切なのに、纏わり付いて離れない影に胸が痛くて痛くて仕方ない。曲を止めようと手を伸ばすと、それは唐突に腕ごと阻まれた。ハザマさんが両目でわたしを捕らえている。

「ナマエさん」
「あ、あの、そうじゃなくって」
「あと何回あなたはあの男に泣かされるのですか」

淋しい目だなあと思ったら哀しくって、なんてわたしは馬鹿なんだろうと苦しくて、涙がスッと引いていく。多分心の穴は埋まらないけれど、継ぎ接いだ傷痕の痛みがわたしを大人にしていく。大丈夫だから、とか上から目線で呟きかけて、そしたらハザマさんはちょっと笑ってまた眠ってしまった。



20151001

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