短編 | ナノ

いつも暗い顔をしているから、ハザマさんはよくわたしを外に連れ出してくれるようになった。ご飯を食べてみたり、夜景を見たり、お酒を嗜んだり、その時ばっかりは楽しいけれど一人になったら憂鬱になる。別に何か悩み事があったわけではない。あったのかもしれないけれどもう忘れた。

「ナマエさん、今日はどこに行きましょうか」
「帰る」
「ではお世話になります」

ニコニコとハザマさんが着いてくる帰り道は結構楽しい。わたしの青色と、ハザマさんの黒い制服は道行く人を避けるには最適の格好だった。なんとなく、こんなはずじゃ無かったのになあとか考えている。わたしには好きな人がいた。黒服で、寒いところの領地様だった。

「転属されたい」
「アキツですか?」
「やっぱりカグラ様が好きなんです」
「そろそろ前に進んでくださいよ。私では駄目ですか」
「駄目かなあ」

とか言いながらわたしはハザマさんとキスをする。ハザマさんは優しかった。笑顔が眩しい。わたしの部屋はハザマさんの私物でイッパイだ。
ハザマさんはわたしの頭を優しく撫でる。これがカグラさんだったらいいのになーとか考えながらもわたしはハザマさんに体重を預ける。

「人生やり直したい」
「次の人生ではきっとナマエさんに悲しい思いはさせませんから」
「約束してくれるんですか?」
「任せてください。だからもう少しだけ我慢して頂けると幸いなのですが」

その日は安心して眠れた。ハザマさんの腕の中で日付を跨いで、起きた時にはもうハザマさんはいなかった。けれど帰りの時間にはハザマさんは、わたしのことを待つように部屋の外に立っている。

「ナマエさん、お付き合いしませんか」
「何か変わりますか」
「まあ今までとは何も変わりませんね」
「だったら今のままでいいじゃん」
「それでは嫌なんですよ。わかっていただけませんかね」

どうしようもない空気感はわたしをいつも苦しめている。どうしようもない。このまま新しい人生が始まればいいのに、足踏みしているのはいつもわたし自身だ。

「もうちょっとだけ勇気をください」
「いつでもお待ちしておりますので。そうだ、少し散歩して帰りましょう」
「肩が痛い」
「お荷物お持ちしますよ」
「あ、はい」

目的もなく歩くのは少しだけ息苦しかった。この人が永遠にわたしのことを好きだったらよくて、その上それがこの人じゃなくてカグラさんならいいのに。
カグラさんの顔を段々思い出せなくなってきている。それがなんとなく悲しくて、愛が永遠じゃないのを理解すると、わたしはハザマさんの手を振り払ってしまった。

「やっぱり違うんです」
「私では駄目ですか」
「駄目じゃないけど違う」
「じゃあ俺ならいいだろ」
「誰ですか」
「冗談です。ナマエさん、もう少しだけですから」

ハザマさんのいうもう少しは何が根拠になっているんだろう。家に帰りたい。そこにはあたたかい光が灯っているんだ。
真っ暗な部屋に二人で帰って、ハザマさんの置き散らかした荷物に引っかかって転んでしまった。ハザマさんは笑いながらごめんなさいと謝る。段々これが日常になっていって、それはそれでいいんだということは知っているのに、わたしはいつまで意地を張っているんだろう。


20150814

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