短編 | ナノ

( 健康な嫉妬 )



人形のくせに生意気だとは思う。
人の幸せを見ていると妬ましくは思わないが、どうにかしてそれを壊してやりたいと感じる。特に理由は無くて、ただ持ち上げてから落とされたときに見せる絶望的な笑顔だとか、泣き顔だとかを見ているとたまらなく愉快な心持ちになるのだ。
ハザマは最近浮かれている。女と喋舌ったとか、手を繋いだとか、まるで健全な青少年のように一々そんなくだらないことに一喜一憂しているのだ。その度に俺の為にこさえられた人間ですらない容器のくせにと苛立っている。
女はミョウジといって俺の好みには掠めもしない。いつかの眼鏡とは系統が随分変わるから、ハザマはハザマで一丁前に人格を持っているようだ。その姿も性格も至って凡庸で、どうせ同じ身体で関わるのならあの爆乳の女医の方が自分の精神衛生上いくらかマシであると思う。

「何か勘違いしてるみてぇだけど、俺様がテメーの邪魔をしないとか思ってたら痛い目見るからな」

とは言ったもののハザマの調子が悪くなって一番不都合を被るのは自分である。件の女は置いたとして、まさかこいつの不幸に連鎖する人間なんていないしむしろ喜ばれるぐらいではないかと考える。思い詰めるといかにろくでもない生き方をしてきたか突き付けられるようで笑いしか出なかった。自分さえよければそれでいいを絵に描いたように、この生き様は勝手である。
髪が乱れるだけで何もいいことのない帽子を脱ぎ捨て、机に足を投げ出しているとドアがノックされた。居留守を決め込む自分を押し退けて、ハザマは慌てて服装を整えて、声のトーンなんていつもの何倍も上げて来客を招いた。女だった。

「これはこれはミョウジさん! 今日はどうなさいましたか?」
「少し体調が優れなくて……、よかったらソファをお借りできないかと思ったんですが、お邪魔でしたか?」
「いいえとんでもありません! しかし私、残念なことにこれから少し野暮用がありまして……。すぐに戻りますから、どうぞいくらでも寛いで行かれてください」
「それでは、お言葉に甘えて」

用事なんてあっただろうか。女を一人残してせかせかと外に出る。これはもしかしたら面白いことになるかもしれない


***



ハザマの身体を乗っ取るのは簡単なことだった。もともと俺の為の器なんだから、いつもこうでないとおかしいのだ。
踵を返し部屋に戻ると、女はお忘れ物ですか、なんて笑いながら部屋を掃除していた。通い妻のようなその姿に反吐が出る。

「いやあ、ミョウジちゃんがいると思うといてもたってもいられなくて」
「ミョウジ、ちゃん……」
「(顔を赤らめんなよ気色悪ぃ)お名前、何でしたっけ。私もっとあなたにお近付きになりたくて」
「ナマエ……です」

満更でもないご様子で女は直立不動で答えた。随分と青春を楽しんでいるようでご機嫌だな。
ハザマを装って敬語なんて使ってみたが居心地が悪い。帽子は取らずに女に近寄り腰に手を回すと、呆気に取られたように肩が震えた。

「ナマエ、ですか。素敵なお名前ですね。体調が優れないとか仰ってましたけどお元気そうで何よりです」
「そ、それは……その……」
「……、あーうぜー。俺様にこう言うことされたくて来たんだろ? ムッツリスケベのクソ女」
「きゃ、ハザマ……さん!」

女を壁に突き飛ばす。思っていた以上に軽くていとも簡単に背中を打ち付けて悶える姿は滑稽だった。こいつ、いや、こいつらの気に食わないところはここだった。お互いが進展するのを望んでいる癖に駆け引きに高じているこの状況、二人とも少しでも自分を崇高に見せるために下世話な本性を隠していかにも清潔そうにしているところがたまらなく不愉快だ。
女の服を剥ぎ取り散ったボタンを踏みにじる。最初こそ戸惑っていたものの抵抗をしない様がひたすら不快感を煽る。

「テメェを見てたらイライラすんだよ。俺様相手に恋愛ごっこか? 笑わせんなぁ。清純そうに見えてそうやって偉い奴捕まえて出世してってんだろ? ナマエちゃんよぉ」
「ハザマ、さん……何か変ですよ。わたしなにか、気に障ることしましたか……?」
「気に障る? 言ったじゃねーか。テメーみたいな奴が俺は一番イラつくんだよ」

髪を掴んで首筋に歯を立てる。申し訳程度の香水の甘い匂いに噎せそうだった。
血が滲むまで噛み付いて、それでも少しも収まらない苛立ちを膝に込める。腹を蹴り上げられてうずくまる姿すら汚ならしい。

「痛いのはお嫌いですか? んなわけねーよなぁ。こんなにびっしょり濡らしちゃって、やっぱり期待してたんじゃねーの?」
「ち、ちが……!」
「お生憎様、俺は人が痛がってるトコを見るのが一番好きだから。泣くなり喚くなりお好きにどうぞ。あ、助けなんて来ねーから。残念でした」

この際床でも構わない。カーペットの端で寝そべる女の下着を取り払って指をねじ込んだ。血が出ている。痛みに顔を歪める様を見るにとんだ見込み違いだったようだ。
処女だからと言って今更辞 やめる理由にもならず、さっさと終わらせようとファスナーを下ろす。ハザマの本能なのか男のそれなのか、情けないぐらいに怒張した物にため息が出た。

「ハザマ、さん、やめてくだ……さい。わたしのこと嫌いだったなら謝りますから、もう二度と会いになんてきません、から」
「ハザマはナマエちゃんのこと好きみたいだけど? あ、これ言ったらネタバレになっちまうか。まあ、不都合になれば殺せばいいだけだし? 別に問題ねーか」
「何、言ってるんですか……?」
「いいから黙って喘いでろよクズ」

大して慣らしていない穴に一気にぶち込むと、女はぎゃーぎゃー泣き喚き出した。これだよこれ、お互いいい年こいた男女なんだから、後先考えずにとっととヤッちまえばいいんだ。
暫く腰を打ちつけていると余裕ができたようで、女はたまに漏れる声を押し殺すように口を片手で押さえた。それに不本意ながらも興奮する自分もどうかしている。

「ナマエちゃん、俺バックの方が好きなんだよなー。後ろ向いてくんない? あ、逆らったらさっきのより痛いことするから」
「は、はい……っ!」
「素直でいい子じゃん。最初からこうなら訳ねーんだけどな」

体勢を変えると深く入ったようで、ナマエは苦しそうに呻き声を上げた。それも最初の数回だけで、次第に滑りがよくなるのと同じく嬌声が出始める。
腰を掴んで考えなしに腰を振っている傍ら、ナマエは床に爪を立てて快感だか苦痛だかに耐えている。別にどちらでも構わないが、たまに縋るようにハザマの名前を呼ぶのが気に食わない。

「そんなに俺のことが好きだったか? 笑えんなあ、これ以上ないぐらいひでーことされてんのに」
「あ、や、ハザマさ……ん! 強くしたら、だめっ! ぅ、ああああっ!」
「何? 無理矢理犯されてイッちゃった? とんだド変態だなぁ、おもしれー」
「い、今動いちゃだめぇっ! お願い、やめっ」
「やめるわけねーじゃん。俺まだ出してないんだし」

ビクビク震える身体に一際強く腰を突き立てる。どうやら絶頂感が収まらず休む間もなく伸縮が繰り返される膣内に、もういい加減にしようと精子を吐き出した。

「中、出て…るの……?」
「ナマエちゃんこっち向いてご覧? 妊娠するかもしれねーなあ。絶望的な可愛いお顔見せてくれよ。ヒャハハハハ」
「嘘、わたし……ハザマさん、の……」

まじまじと見つめたナマエは、顔面蒼白といった言葉が丁度良かった。初めてなのに激し過ぎたようで、ナマエの瞼がゆっくり閉じていく。

「ほら、舌出せよ。まだ私たちはキスもしていませんでしたよね」
「ハザマさん……」
「俺に失望しただろ? マジで楽しいわ。レイプされてんのにこんなに従順とかウケるー」

優しく口付けてみたが何かが引っかかって気分が悪いので舌を思い切り噛んだ。それでもナマエは身体をビクつかせるだけで、体重が完全に預けられた。


***



「なあレリウス、女ってめんどくせーって思わねえの?」
「興味が無い」
「嫁さん従えてよく言うわ。マジ意味わかんねー。俺そういうの向いてねぇわ」
「ハザマのことか」

ハザマと女の関係をぶち壊して楽しむ予定が、とんだ計画倒れになってしまった。あの後ハザマの絶望する表情を拝めたのはほんの一瞬で、目が覚めたナマエは謝りながら好きだ好きだと泣き始めたのだ。
それからは月並みなメロドラマのように、二人はめでたくくっつきましたとさ。苦難を乗り越えると男女の間柄は深まるってか? 馬鹿らしい。今日もこの後二人で会うとか約束を取り付けたハザマは俺に感謝している節すらある。

「テルミ、お前もたいそうあのミョウジに傾倒していたようだが。男の嫉妬は見苦しいな」
「は? 俺が? ふざけた事言ってたらマジで殺すぞ」
「殺せるのなら殺されてみたいものだ。私はイグニスの調整があるのですまないが失礼する」
「んだよ、どいつもこいつも女女って」

馬鹿らしい。何より馬鹿馬鹿しいのは自分だ。
人の幸せを見ていて妬ましいと感じたのは初めてだった。人形のくせに生意気だ。ハザマの頬を殴ってみるとただ自分に痛みが跳ね返るだけだった。


20140319

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