短編 | ナノ

 自暴自棄になるのも当然だった。愛した女が死ぬのはこれで何度目だろうか。今回の彼女は殉職したらしい。
 葬列にこの緑の髪は不謹慎に感じる。何度も何度も弔辞を読み上げて、ついには何も見ずに長い定型文を語ることができるまでになった。情けない話であるが、私はこの後決まって物陰で泣くのだ。嗚咽を止めることが出来ず、自分の不甲斐無さを悔いて地面を蹴るのである。

 彼女は明るい人だった。可愛らしい人だった。自分の観測てきたすべての事象で、彼女はいつも私に笑顔を振りまいていた。等しく慈悲深く、そしてどこにいても私に愛を呟いた。一度も無碍にしたことはない彼女の横顔を思い出しては私はまた涙を流す。馬鹿馬鹿しいと嗤う半身も、このときばかりは為りを潜めている。気遣いを受けるだなんて私らしくないとは、どちらの自分も考えていることだろう。


「ハザマくんっていうの? 変わった名前だね」
「コードネームですから。ナマエさん、でしたっけ? 私にはあなたの名前の方がよっぽど不思議に思えますよ」
「どうして? どこにでもいる普通の名前だと思うけど」
「あなたの名前を口にすると何故か落ち着くんですよ」

 彼女はいつでもそうだった。すれ違い様に私の名前を確認しては小さく笑うのだ。そうして私の饒舌に付き合って、昼食を摂って、三ヶ月経ってどちらとも無く恋仲になる。何度繰り返してもその青春臭いやり取りが気恥ずかしかった。そして五ヶ月目、任務に失敗して気を病んだ彼女は薬を飲むのだ。

「ナマエ、何をしているんですか……!」
「ハザマ、くん……? どうして、こんなとこに」
「すぐに救護班を呼びますから! 喋らないでください!」
「いいの、わたしもう……」
「馬鹿なことは言わないでください!」

 思えば最初の事象では彼女の異変に気付ききれずここで死に別れてしまったのだった。この後彼女は少しずつ正気を取り戻して、また笑顔を零す程度に回復するのだった。
 私は彼女を救うためなら何だってした。彼女が、ナマエが死なずに目的を達成できる事象を探して何度も何度も失敗した。馬鹿げている。たった一人の女のために何度好機を見殺しにしただろうか。


「ハザマ、今回こそは滞りなく進めろ。第十二素体は生存し蒼を継承した。次はいつになるか分からん」
「……わかっています」

 何度失ってもまた元通りになる。それでも喪失に耐え切れなかった。そんな自分が引き金を引けるのだろうか。
 今自分は窯の前にいる。全てが当初の計画通りだった。ただ理想とはかけ離れている。
 貴女は死んで、しかし世界は新たな確率を求めています。私の本性を知ったらナマエはどうしましたか。もう二度と会えない姿を悔やみ一歩を踏み出せない自分に耐えかねて半身が精神を乗っ取る。追いやられる精神の中で、このまますべてが終わってしまえとまた自分は涙を流す。


3:21 2014/03/16

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