短編 | ナノ

「大きくなったらハザマさんと結婚するんです」
「胸の話ですか?」
「身長?」
「ならば私は生涯独身でいられそうです」

 枕からは煙草の臭いがした。ハザマさんだろうか。それならばわたしは吸い口になりたい。ハザマさんの涎でべとべとになったまま燃えるごみになってしまいたい。

「ハザマさんって恋してますか」
「特には。必要ありませんのでね」
「生きるには守るべきものが必要なんですよ。って、友達が言ってました」
「その友達は今どちらへ? 多分私の旧友だと思うんですが」
「さあ」
「本当に貴女は無意味な人間ですね」

 片目だけ覘いた金色の目玉はいとも簡単に瞑られた。この人は冷たい目をしている。コンタクトレンズになりたかった。そしたらハザマさんの水晶体にずっと張り付いていられる。

「なりたいものが多いと選択肢に困りますね」
「私のお嫁さんだけではないんですか? 残念ですね。折角薬指が空いていたのに」
「それなら赤い糸を結びましょう」
「こら、そんなに固く結んだら鬱血します」

 ハザマさんの指に制服のリボンを結った。わたしはこのリボンになりたい。でも出来れば人間のままでもいたい。
 乙女心は難しいなあと達観してみたけれど、何も解決しなかった。ハザマさんはわたしにキスもしないで、そしてリボンも解かないで立ち上がってしまった。仕事が立て込んでいるらしい。

「エンゲージリング買ってきてください」
「私物でよければ差し上げますよ」
「薬指にはめて」
「生憎、身を落ち着ける気はありませんので」
「じゃあ親指でいいや」
「それだったら抜け落ちないかもしれませんね」
「わたしは首輪を繋がなくてもどこにもいきませんよ」
「そうですか。私はナマエと違ってすぐに抜け出しますので」
「痩せてますしね」

 ドアが閉まる。名残惜しくて開いてみると、もうハザマさんはいなくてリボンが曲がり角に棄てられていた。その上にはごつごつした指輪が載せられていて、わたしはそれを親指にはめる。

「がぼがぼだ。足につけよう」


7:21 2014/02/24

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