短編 | ナノ

何でも無い話である。
助手席に座っていると落ち着いてしまってよくない。一番下っ端だというのにわたしはいつも、車内でうつらうつらと睡魔に犯されてしまうのだ。

「ミョウジさん、今日はかの技術大佐様がおいでになりますので、くれぐれも粗相の無いようにお願いしますね」
「は、はい……!」
「特に居眠りは厳禁です。今回は極秘資料の運搬になりますから、細心の注意を払うように」

念を押したのはどこの誰だったか。五人乗りの車内で今のところ目を開けているのはわたしとドライバーただ二人である。
先程までは小難しい話をしていた後部座席の上司二人は、もともと寝てるんだか起きているんだかわからない顔面をしている。技術大佐に至っては顔を覆い隠しているので怪しいことこの上ない。
バックミラーに映る二人を睨み付けていると、ドライバーが居心地悪そうに苦笑した。しかし落ち着かないのはわたしも一緒である。
ようやく目的地付近に着いて後部座席を目視すると、顔こそ正面を向いているものの微動だにしない二人にうんざりした。

「ハザマさん、ハザマさん。もう着きますよ」
「………」
「ハザマさん!」
「………」

案の定寝息を立てているハザマさんは置いて、技術大佐にも声を掛けたがこちらも無反応だった。ああ、ドライバーが心底迷惑そうにしているのがなんとなしに伝わる。

「ハザマ、さん!」
「……、………はい? どうかしましたか」
「どうかしましたかじゃありませんよ! 寝るなって言ったのあなたじゃないですか!」
「私は寝ていませんが」

嘘つけ! ドライバーとわたしの声が重なって、その拍子に技術大佐の肩がピクリと跳ねた。

「レリウス大佐もやっとお目覚めですか。おはようございます」
「………」
「あ、駄目ですよ。この人眠った時に呼吸が止まるので、さっきのは多分そのせいです」
「それって危ないんじゃないですか?」
「死んだら死んだで嫌な上司がいなくなって楽ですよ」
「ハザマさんも無呼吸になればいいのに」
「ですから寝ていません」

お客様、ドライバーの降車の催促は技術大佐の大いびきで掻き消された。


20140308

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