テルミのことが本当は心から好きな話
「ナマエちゃん最近冷たくね?」
「気のせい木の精森の精」
「ババアか、お前は」
テルミさんがぐりぐりと頭を拳で押さえつける。ソレ痛いから辞めて欲しいんだけど、言ったところでこの人が手加減をするはずが無いので涙目で睨み付けた。
この人は厄介な性質で、人から嫌われたら嫌われる程に強くなっていくらしい。強い、っていうのが何なのかはよくわからないけれど今日の彼は確かに強情だ(いいやテルミさんが強情で無い日なんて知らない)。
「まさか他に男が出来たとか? ぶっ殺してやるから名前言えよ」
「そんなんじゃなくて、単に仕事が忙しいんです」
「それって誰のせい?」
「しいて言うならテルミさん?」
面倒くさいことに、テルミさんのやらかした各種後始末をわたしは一人で請け負っている。そんなの知っているんだろうに、彼はいっつも派手なことばかりするのだ。
少し前まではえらく慎重で、こうしてわたしの前で黄緑色の髪を逆立てることも無かったのにどうしたことか最近奔放である。この前は話している途中でツバキちゃんが執務室に入って来た。「ハザマ大尉、どうされたんですか」「イメチェンですよイメチェン」、無理矢理な言い訳を間に受けたあの子はキットこの先苦労するんだろう。
「仕事なんざハザマちゃんに押し付けちまえばいいだろ?」
「ハザマさんとテルミさんで身体が別々ならそうしてるんですけどね」
「え? それってもしかしてもっと俺と一緒にいたいとか思ってんの?」
「そうですけど」
「うわあああ消えるー」
更に面倒な事に、一丁前に構って欲しがる彼であるけれどあんまり愛情を見せると消えてしまうんだと言う。わたしはどうすればいいのだ。
わざとらしく喉をおさえて苦しんで見せる彼は芸人みたいで少し面白かった。ヤマアラシのジレンマとか、古典アニメで話していたけれどコレはソレに当たるのではあるまいか。
「もっと悪意を持って俺のこと愛してくれよ」
「意味わかりません」
「なんかこう、好きが余って憎しみに変わるみたいな?」
「申し訳ないんですがわたし結構マトモな方なので」
つまんねーの、吐き捨てながらテルミさんが楽しそうに笑っている。そう言う彼は出現して初めての純愛を楽しんでいるのだと、ハザマさんが前に言っていた。長過ぎる人生(人って言っていいのか?)で彼は当然童貞では無いけれど、コレと言って好きな女がいたと言うわけでもないらしい。
「……テルミさんってもしかして素人童貞ですか?」
「あ? ナメた口聞いてたらぶっ殺すぞ」
「どの道わたしはテルミさんに殺されたいんでいつでもいいですけど」
「それだよそれ! やっぱ最高だわ!」
彼が求める歪んだ愛とはコレなのか。
分かったところで死んでしまっては元も子もないので、これからもわたしはテルミさんのことを適当にかわしたりいなしたりしながら生きていくんだろう。
本当は今すぐにでも抱きしめたいのにそんな些細な願望も叶わないだなんて、やっぱりわたし達はヤマアラシと変わらない。素直になる方が損をする、ソレが何だか腹立ってそのままテルミさんの脛に蹴りをかました。
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