▼ 02 浮かぶ疑問符
「…裏社会の人間か」
「犯人が裏の人間の可能性があるなら、必ず伯爵がここへ召喚されると思ったよ」
ファントムハイブ家は代々「女王の番犬」と呼ばれる裏の仕事をしている。
女王のために秩序を乱す者の始末など、イギリス裏社会の管理や汚れ仕事を請け負っているのだ。
伯爵は弱冠13歳という若さでその仕事を担っている。
「きっとまた殺されるよ。ああいうのはね、誰かが止めるまで止まらないのさ」
伯爵は目を瞑ると、組んだ手を強く握りなおした。
「必ず止めてみるさ。女王の庭を穢すものは、我が紋にかけて例外なく排除する」
睨みつけるような強い視線で見据えられ、思わず心の中でくつくつと笑ってしまう。
背景を知っている分、彼の行き過ぎた生意気さや傲慢さを憎むことができない。むしろ可愛げさえ感じてしまう。
「期待しているよ」
「それで、お前の要件はなんだ」
「ああ、それね。実は昨日、事件現場付近で血塗れの女の子が倒れていてねぇ。まだ生きていたから連れて帰ってきたんだ」
「…なんだと?」
傷跡がないことはまだ黙っておこうと思った。由里が犯人ではないと思っていたが、その事を証明できる確実な証拠が揃っていない。
それになんとなくだが、彼女にそんな事ができるように思えなかった。
「事件に関係がありそうなのですか?」
「それは小生もまだわからないんだ。さっき目を覚ましたところでね。風変わりな格好をした東洋人で、年齢は20歳前後ということくらいしか把握できていないよ。君ら、何か知らないかい?」
「名前は?」
「新庄由里と言うらしい」
「劉。この名前に心当たりはあるか?」
「いやぁ。ないね〜」
「その子、今会えるの?」
「さっき、起きたばかりだからねぇ。ちょっとまだ無理かな〜」
「その女を明日、屋敷に連れてくる事はできるか?話が聞きたい。それなりの報酬は払う」
「…わかったよ」
「では明日待っている。邪魔したな」
伯爵達は立ち上がり、店を後にした。ただ1人、執事君がまだ店に留まっていた。
「どうしたんだい?」
「…どういう風の吹き回しです?」
執事君は涼しい顔をしてこちらを見つめていた。
「小生にも人の心はあるんだよ〜?害獣風情とは違ってねぇ」
彼は一瞬驚いたような表情を浮かべると、貴方にはお見通しのようですね、と言葉を残して去っていった。
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