▼ 01 メッセージをどうぞ
「いるか、アンダーテイカー」
騒がしい音を立て扉が開かれる。
ファントムハイブ伯爵にその執事、伯爵の叔母であるマダムレッドそれに貿易商の劉の総勢4人のお出ましだった。
おそらく今日は例の件で来たのだろう。
「いらっしゃ〜い伯爵、今日はまた大所帯だねぇ。やっと小生の棺に入ってくれる気になったのかい…!」
「そんな訳あるか、今日は…」
「どうせあれだろう?切り裂きジャックの件だろう?」
「…その話が聞きたい」
「まぁその辺に座っておくれ、お茶を出そう」
戸棚から洗ってあるビーカーを取り出し、とっておきの紅茶を淹れる。
伯爵は紅茶の味にうるさいのだ。
小生は葬儀屋といっても2つの仕事を主としている。
一つ目はそのまま。亡くなった人を綺麗し、最後のセレモニーを取り計らう"葬儀屋"としての仕事。
二つ目は情報屋だ。遺体を綺麗にする際、少し検死を行う。「死人に口無し」という諺があるがそれは真っ赤な嘘で、死体に残された傷跡や死斑は実にたくさんのことを小生に語ってくれる。
そこから得た情報を少しの対価を条件に、クライアントへ売りつける仕事を生業としているのだ。
「対価は…」
「ああ、今日はいらないよ」
「…珍しい」
伯爵の執事くんが目を細める。何か裏があると思っているのだろう。全くもってその通りなのだが。
「うーん、小生も少し伯爵に用があってね。その代わりさ」
「その要件とは?」
「また後にしよう。それもこの件と少々関わりがあるから」
もちろんその要件とは由里の事であった。幸いな事に、今日は彼女と同じ東洋人である劉もいる。彼らなら何か知っている事があるかもしれない。
「切り裂きジャックねぇ。小生があんなお客さんを相手にしたのは初めてじゃないよ」
「初めてじゃない?どういう事?」
「昔から何件かあったんだよ、娼婦殺しが。ただ、手口がどんどんハデで残酷になっているのさ」
「そうなのか」
「あぁ、殺された娼婦にはみんな共通点がある」
「共通点ですか?」
「臓器がね、足りないんだよ」
その言葉に皆一斉に顔を青ざめさせる。死体に免疫がない一般人には無理もないだろう。
「皆腎臓が片方ないとかそういうことかい?なら犯人は金融業とか…」
「足りないのはねぇ、子宮さ」
「…子宮ですか。いくら人通りの少ない路上で、しかも真夜中となると、的確にその部位を切除するのは素人には難しいのでは?」
さすが伯爵の執事君、いいところを突く。
こういう所があるから彼は侮れないのだ。
「鋭いね、執事君。小生もそう考えてるんだ。手際の良さ、それからためらいのなさから考えて犯人は素人ではないね。恐らく"裏"の人間だ」
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