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▼ 11 誰だったら満足?

目の前の紙切れを見つめて唸ること数時間。私は心底困っていた。

「うーーーん…どうしようかな」

華やかな文字が印刷されたチケットを裏返すと
”16時、あのカフェで待っています”
という文面が綺麗な書体で綴られていた。

そう。今日はレオナルドに誘われた映画デートの日なのだ。
カウンターに顎をついてうんうん唸っていると、アンダーテイカーが店に入ってきた。
一瞬どきりと心臓が跳ね、思わずチケットを机の中に滑り込ませる。

「おかえり」

ああ、と彼は軽く頷き、こちらを見る事なくキッチンへ向かった。
ふぅ、と心の中で軽く息をついた瞬間、再度アンダーテイカーがひょっこり顔を出す。

「由里、何か隠し事してないかい?」

流石です。正解です。
思わず拍手しそうになったが、バレるわけにはいかない。こういう事に限って彼は恐ろしく目敏いのだ。

「な、なにも?」

「ほんと〜に〜?」

じりじりと間合いを詰めてくるアンダーテイカーの口元はにやりと歪み、至極楽しそうだ。しかし、目が笑っていない。
射抜くような冷たい光を放つ瞳から目が逸らせなかった。

「近い!近い近い顔が近い!」

顔を真っ赤にしながらそう叫ぶと彼はまぁいいやと、驚くほどあっさり引いてくれた。

「1時間ほど出てくるから、大人しくしとくんだよ〜」

アンダーテイカーはくしゃりと私の頭を撫でると、手をひらひらさせて扉の向こうへ消えていった。

大きな溜息をついてカウンターに倒れこみ、机の中に手を入れる。
どうもアンダーテイカーに調子を乱されてばかりの自分が、無性に腹立たしかった。
指先につるりとした紙の感触が当たって引っ張り出す。もう一度丁寧に書かれた文字をゆっくりと読んだ。

16時まであと30分。ここから待ち合わせのカフェまで10分かからず行ける距離だったため、十分間に合う時間だった。

映画は見たい。何せあの全イギリスが泣いた暴れん坊将軍の続編だ。
前回のラストは、敵に料理対決をしかけ、罠にはまった暴れん坊将軍が海に落ちるシーンで終わった。彼の生死が気になり夜も眠れない程だったので、見ないわけにはいかなかった。

しかし、レオナルドと見たいか。
と言われるとクエスチョンマークが浮かぶ。

「私が一緒に見たいのは…」

そう考えると1人の人物がすぐに頭に浮かんできた。

…断るべきだよね。うん。断ろう。
このチケットを無駄にするわけにもいかないので、取り敢えずレオナルドに会って返そうという考えに至る。
アンダーテイカーが帰ってくるのは約1時間後だ。彼の目を盗んで外出するには十分すぎる時間だ。

由里はいそいそと出かける準備を始め、店の看板をcloseにひっくり返すと待ち合わせ場所へと向かった。




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