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▼ 09 気づけ、気づけ、気づけ


「それで、進展は何かあったか?」

「なんにもないわヨ。あの店人っ子一人尋ねてきやしないじゃないの」

グレルは突っかかるようにし、問いかけに答える。

今日はシエルの屋敷に集まり、状況報告と調査結果を話し合う事となっていた。
死神の監視がついてから数日、悪魔調査に関してこれといった進展が見られないのが現状だった。

「そちらはどうなのですか?」

ウィルは脚を組み、片手の指でトントンと机を叩きながらセバスチャンの方へ鋭い視線を向けた。
今日は余程機嫌が悪いらしい。

「死体が動いた。との報告があった家を何軒か尋ねてみました」

各家を調査したところ、貴族の家家柄の娘、イーストエンドの貧民街の物乞い、はたまた阿片窟の中国人と、被害者はてんでばらばらで共通点は見当たらないそうだ。

「しかし…これをご覧ください」

セバスチャンが机に置いたのはある一家の死亡証明書だった。

「7月2日、アニー・オータスという農家の娘が生き返ったという証言がありました。その後すぐ死亡、そしてこの娘の両親であるセシル・オータス、アラン・オータス両名が翌日の3日に死亡しています」

「…というと?」

アンダーテイカーは骨型クッキーをかじる口を止め、訝しげに尋ねた。

「私が調査に向かったところ、3人の魂は既に消失しており、遺体には悪魔が喰らった痕跡が残っておりました」

「犯行の裏は取れたんだね〜」

「あとは、悪魔の親玉を引きずりだして叩けばイイってコトね」

グレルはぱちんっとウインクをすると、セバスチャンはさも気持ち悪いというように顔をしかめる。

「それで、親玉は出てきそうなのか?」

「う〜ん、低級悪魔はたくさん殺ったんだけどねぇ、中々出てきてくれないんだよ」

そろそろ出てきてもいいとおもんだけど〜、とアンダーテイカーは人差し指を口に当てて天井を見上げた。

「とにかく、油断は禁物です。死神の方達は今まで以上に見張りの強化をお願いします」

そのセバスチャンの言葉で、今回の会議は終了となった。


ぞろぞろと各自応接室を出て行き、私とセバスチャンが部屋に取り残される。

「最近はどうですか?」

何を。とは言わないがアンダーテイカーとの事だろう。

セバスチャンは不躾にものを尋ねる事を決してしない。常に相手を不快にさせない会話の配慮を行なっている。
今回は私を心配してくれての事だろうが、さり気なく。しかし的確に情報を聞き出す事が病的に上手いのだ。
私は彼のそんな所が気に入っていた。

「うん、なんとか」

曖昧に答えてしまったが、私の表情が柔らかい事に気付いたのだろう。
セバスチャンは良かったです、と微かに微笑んだ。

「由里さん、お気をつけてくださいね」

その言葉の意味を取り違えていた事に気づくのは、まだまだ先の話だった。




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