小説 | ナノ


▼ 08 ゆっくりとそれは

今日の当番はウィルさんだった。

しかし、死神派遣協会に呼び出されたとか何とかで1時間ほど遅れると先ほど連絡があった。昼間ということもあり、少しなら大丈夫だろうと言われ、私は今1人店番をしている。

「…暇だ」

暇すぎる。
最近もう1つ葬儀屋が近くにオープンしたらしく、ここの不気味な店構えも拍車をかけて客足は激減していた。

情報屋としての仕事も、アンダーテイカーの留守が多いため、もはや機能していない。

カウンターに突っ伏し、そういえば最近一緒にご飯食べてないなぁと思った瞬間、店のドアが空いた。

「ひさしぶり」

やぁと手を上げて店内に入ってきたのはレオナルドだった。
暇を持て余し、死にそうだった私にとって彼の登場は正に救世主。
輝く笑顔の後光も相まって、イエ◯・キリストにさえ見えた。

「いらっしゃい!丁度暇してたの!」

さぁ座って座ってと促す私に彼は手土産まで用意してくれたようだ。
それも私の大好きなクロワッサン。
ジーザス神よとはこの事である。

最近どう?との問いかけに、私は嘘をつくしかなかった。
まさか悪魔に狙われてるから外出できないと言ったところで信じてくれるわけがない。
まだ頭がおかしい人だと思われたくはなかっため、適当に言葉を濁すと彼は指に何か紙を挟んでヒラヒラとさせていた。

「これ行かない?」

差し出されたのは映画のチケットだった。
日付は1週間後の今日。
思わず行く!と言いそうになったが、今の私の立場を思い出して口をつぐむ。

中々言葉を発しない私の様子を見て、何かを悟ったのか、レオナルドの方から口を開いてくれた。

「予定が合えばでいいから、考えておいて」

そう言葉を残し、軽く微笑むと彼は店を出て行った。

入れ替わりのようにしてウィルさんが入ってくる。

「…今のは?」

レオナルドが立ち去った方を見ながら、ウィルさんが尋ねた。

「友達のレオナルドです。クロワッサン持ってきてくれて…」

ウィルさんも食べますか?と差し出すと、私はいいです。と断られてしまった。
美味しいのに。

「……」

「……」

沈黙。ウィルさんの方にちらりと目線をやると、微動だにせず腕を組んで立っている。

「あの…座りません?」

「いいです」

ぴしゃりと突き放されてしまい、そのまま黙りこむ。
なんというか、会話が続かない以前に存在が気まずい…

「つ、疲れません?」

顔を引きつらせて笑顔を作りながらそう言うと、ウィルさんは大きな溜息をついた。

「私の事は放っておいてください。ただの監視員ですから」

そんな身もふたもない事を言われてしまった。
思わずカチンときてしまい、そっちがそうならこっちもこうだ!という勢いでウィルさんを無理やり座らせる。

「だからいいですと…」

「こっちの身が持たないんです!」

ウィルさんの言葉を遮り、こめかみに青筋を立てながらそう言うと、彼は大きな溜息をついて渋々席に着いてくれた。

どうぞ、と紅茶を勧めると、これ飲めるの?という表情で私を訝しげに見るが、大人しく口に入れてくれた。

ティーカップを持つ指は細長く、下に向かって落とされた目元は冷たく涼しげだ。
よく見るとウィルさんって美形だなぁと横顔を観察していると、彼は驚いたような表情を浮かべていた。

「これは貴方が?」

「はい」

彼はしばらく黙り込むと、紅茶を淹れる腕は認めましょうと、ぼそりと呟いて再度ゆっくりと液体をを啜った。

その言葉に少しだけ嬉しくなり、もう一杯淹れてきますねと告げると、私はキッチンへ駆け込んだ。




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