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▼ 04 心臓ならここだよ

店にたどり着くと、客人の手当てをするために服を脱がせる。コートは血で赤黒く染まっていた。
出血の仕方からおそらく背中に傷があるのだろう。うつ伏せにし 、服をまくると思わず声をあげてしまった。

傷がないのだ

そんなはずはないと思い、急いで全身をくまなく調べるが小さな傷一つ見当たらない。

「ありえない…そんなはずは」


服に染みついた血の量から、傷が一つも存在しないのはどう考えてもおかしい。
現場にも明らかに致命傷と言える血溜まりができていた。


「…と、すると、返り血かな」


血のつき方は、2パターン存在する。
一つ目は内部からの付着。つまり自らの裂傷による出血だ。
二つ目は、外部からの付着。他人の返り血が付くパターンである。
しかし、服の血の付き方を調べても明らかに内部からの出血だった。


「ふうん…これは、はじめてのお客さんだ」


あれだけの出血量の傷を数分で治せる人間など存在するのか。長年生きているが、そんな人間など見たことがない。だとすると人ではない、悪魔等の類なのか。


彼女を仰向けにし、様子を観察してみる。
長い黒髪、薄いが品のある顔立ちに細い体躯。悪魔のような害獣的気配は感じない。
魂の気配は少し薄いが、ちゃんと存在しているようだ。
顎に手を当てしばらく頭を悩ませるが、明確な答えにはたどり着かなかった。


「うーん…この子は一体何なんだろうねぇ」


面白いじゃないか、久しぶりに小生の興味をそそる存在だった。

魂があるなら、シネマティックレコードでも見てみようか…

小生の表向き仕事は葬儀屋であるが、本性は死神だ。半世紀ほど前に引退したが、死んだ人間の魂を回収する仕事をしていた。

シネマティックレコードとは、人間の過去が記されているものだ。死神の鎌、デスサイズと呼ばれる鎌で斬り付けた相手の記憶をフィルム化して再生させ、映画のように見ることができる。


懐からデスサイズを取り出し、ためらいがちに彼女の頭上に掲げた。
そのまま振り下ろし、胸に切っ先が刺さる直前で思い直して手を止める。
頭を振ると未だ目を覚まさない彼女を抱きかかえ、寝室に運んだ。





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