小説 | ナノ


▼ 06 緩やかに描かれる弧

今、私の目の前では非常にカオスな光景が繰り広げられていた。

死神と悪魔、それに女王の番犬が一堂に会したのだ。

シエルはグレルを刺しそうな勢いで睨みつけ、ウィルさんはセバスチャンに殺気を隠しきれていない。
セバスチャンは今にも抱きついてきそうなグレルを引き剥がそうと躍起だし、アンダーテイカーは爆笑が止まらない様子だった。




シエルとセバスチャンに情報を渡している最中、店に入って来たのは死神2人だった。

「アラ〜!!セバスちゃんじゃないのォ〜!」

飛びつかんばかりの勢いでグレルが駆け寄り、セバスチャンはすんでの所で躱す。
それによってグレルが店の棚にダイブし、棚にあった瓶やら壷やらが数個割れたのだが、請求書は誰に出せば良いのだろうか。

まあそんなこんなで現在の状況に至った訳である。


「こんな所になぜ貴女如き害獣が?」

「それはこちらのセリフですよ死神さん」

両者こめかみに青筋をたて、一触即発状態のセバスチャンとウィルの間に、まぁまぁと仲裁に入る。

「私達はこの小娘に用があるだけです」

…私に用?どういうことだろうか。
セバスチャンも訳がわからないという様に眉をひそめている。

「貴方達が調査しているのは悪魔なのでは?」

「えぇ、その悪魔が狙っているのがこの子です」

ウィルさんは私の腕を強引に引っ張り、肩側に引き寄せ、説明を始めた。

どうやら私の魂は普通の人間と違い、悪魔にとって格好の餌になるそうだ。
それによってたくさんの悪魔が惹きつけられ、この街で悪さをしているのだと言う。
動き回っている死体も彼等の仕業の一貫だろうと、ウィルさんは丁寧に説明してくれた。


「なるほど。それは一理あるでしょう。しかしこの量の悪魔が集まるのはおかしいのでは?」

セバスチャンの質問に、ウィルさんは最もだと言うように手を挙げて答える。

「小娘の魂を狙っているのはもっと上級の悪魔です。その手下がここに送り込まれ、こんな状態になっていると推測しています」

話について行けず頭が混乱する。
取り敢えず小娘呼ばわりされるのが気に入らなかったので指摘すると、ウィルさんは失礼しました。と謝ってくれた。
意外と良い人だ。

「…それで由里をどうしたいんだ?」

シエルの言葉に少しだけウィルさんが微笑んだ気がして背筋が寒くなる。

「囮として貸していただきたい」

「それは無理だ、こちらも悪魔について調べる義務がある。そう易々と由里を使われる訳にはいかない」

私が囮になる前提で話が進んでいるのは気が進まないが、両者睨み合いが続く。
張り詰めた空気を破ったのはシエルだった。

「共同戦線というのはどうだ?」

「私たちがですか?」

「僕等は動き回る死体について調べ、女王に報告する。貴様らは悪魔を叩く。敵の敵は味方と言うだろう?」

シエルの瞳に迷いはなかった。
ウィルさんは暫く顎に手を当てて考えると沈黙する。そして長い溜息を吐くと、渋々といった風に頷いた。




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