小説 | ナノ


▼ 05 月は肥大する

シエルとセバスチャンが訪ねてきたのは、私が死神御一行と遭遇した数日後の事だった。

「いらっしゃぁ〜い、今日の相談はなんだ〜い?」

「葬儀屋、動き回る死体について何か知ってるか?」

「その前に、”アレ”をおくれ〜?ヒッヒッヒ」

薄気味悪い笑みを浮かべるアンダーテイカーは、いつになくご機嫌だった。彼はシエルをからかうのが大好きなのだ。きっと、今日はシエルから対価を貰うつもりなのだろう。

「セバスチャン!」

「あれぇ?伯爵は執事くんがいないと何もできない子なのかなぁ〜?」

まんまとアンダーテイカーの挑発に乗ったシエルは、ふざけるな!と言い放ち、顔を真っ赤にして上着を脱ぎ始める。
お前ら絶対見るなよ!とのお言葉を賜り、私とセバスチャンは店の外に出された。

「…シエルにできるの?」

「成功する事を祈っておきます…」

少しだけ心配になりセバスチャンに尋ねると、彼も苦笑していた。


結局、私たちが店に入る事を許されたのは、陽が沈みかけた夕方だった。
私たちはかれこれ5時間近く待たされたのだが、アンダーテイカー相手にそこまで粘ったシエルも大したものだ。

「ブフッ…まさか伯爵があそこまでするとはねェ〜…グヒャッヒャッヒャッ」

床をのたうちまわるアンダーテイカーを尻目に、シエルは早く話せとご立腹だった。

何やら巷では、死んだはずの人間が起き上がって動き回るという現象が何件か起きているらしい。
どこかで聞いたことのある話だった。

「そうだなァ…これは人間には専門外だねぇ」

「…どういう事だ?」

「前回と同じだよ。今回はちょっと違うけどねぇ〜」

アンダーテイカーはちらりとセバスチャンの方に目を向けた。

「…確かに最近悪魔の気配は増えていました。…しかし彼らがやったという証拠は?」

「死神が調査に来ているんだよ。この件に関してね、現に由里が接触してる」

その言葉に、二人は驚いたような表情を浮かべ、こちらを見た。

「昨日、…グレルともう一人の死神に会ったの」

ウィルさんとグレルが話していた事を掻い摘んで説明すると、2人は納得したようだった。

「…なるほど。彼らまで動いているのならば、今回は悪魔が関係しているのかもしれませんね」

セバスチャンは腕を組み、小さくため息をついた。
彼はどうしますか?とシエルに尋ねると、死神に直接話を聞くしかないだろうと言う。

グレルはマダムレッドを切り裂きジャックに仕立て上げ、あまつさえ命まで取ろうとした張本人だ。少しだけ、心配になった。

「来ているのは、あのグレル・サトクリフだよ?」

私と同じ事を思ったのだろう。アンダーテイカーはにやりと笑みを浮かべそう尋ねた。

「使える駒は使うだけだ。それが例え肉親の敵だとしてもな」

シエルが強く言い放った瞬間、店のドアが乱暴に開かれる音がした。




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