小説 | ナノ


▼ 02 息を潜めて

花屋で白百合をバケツ一杯買い込み、棺に敷き詰めていると、アンダーテイカーがつかつかと歩み寄ってきた。

「死神に会ったのかい?」

さすが、というべきか。
何も言っていないのに、私がグレルとウィルに遭遇した事を気配で察知したようだ。
”同族の匂い”というのはやはりわかるのだろうか。

「うん、通りで。なんだかまた事件が起こったみたい」

すると彼は黙り込み、口元に手を当てた。
彼らが勘付いて調査に来ているのだ。
アンダーテイカーが気づいていないはずがない。

以前の私だったらそのまま流していたが、最近は気になる事があると口に出すようにしている。
答えてくれる頻度は少ないが、別にそれで良い。こちらから線引きをするのはもう辞めようと決めたのだ。

何かあったの?と問うと彼は珍しく話し始めた。

「この近辺で悪魔の仕業と思われる事件が増えているんだよ」

そう言えばグレルがそんな事を口走っていたなぁと思い出す。
話しの続きを聞くと、何でも死体に回収すべき魂が入っていない事例が多いらしい。そのため、死神派遣協会は調査に来たのだろうとアンダーテイカーは推測を立てていた。

と、そこで1つの疑問に行き渡る。

「アンダーテイカーは、その死神派遣協会とやらの仕事はしなくていいの?」

アンダーテイカーと一緒に暮らし始めてから数ヶ月経つが、私は彼が死神としての仕事をしている姿を見た事がなかったのだ。

「ああ、もう辞めたからねぇ…今はただの葬儀屋さ」

そんなに簡単に辞められるものなのだろうか。訝しげに彼を見ていると、これでも現役時代は凄かったんだよォと、黄緑色の目を細めて笑った。

「へぇ」

「おや〜?その目は信じていないだろう」

彼はにやりと片方の口元を歪めると、こちらへゆっくり近づいてくる。
嫌な予感がして、思わず後ずさった。

「今すぐに由里の魂を刈り取ってあげても良いんだよ〜?」

歌うようにそう言うと、目の前に大きな手が伸びて来た。
ごめんなさいごめんなさい信じますからごめんなさいと言いながら、ぎゅっと目を瞑る。

中々やってこない衝撃に恐る恐る目を開けると、額を指で思いっきり弾かれた。

「いたっ!」

「これから、あんまり一人で外に出るんじゃないよ」

そう言うと、今日は遅くなるから先に寝てておくれ〜との言葉を残して店から出ていった。







午前2時を回ったところだろうか。外はしんとしており、人っ子一人、猫一匹歩いていない。

一人の死神が屋根の上から街並みを見下ろしていた。
生温い夜風が頬をすり抜け、彼の長い髪の毛を揺らす。
手には身の丈より大きな鎌が握られており、月の光に反射してギラリと光っていた。
骸骨をモチーフとしたそれを軽々と持ち上げるその人物は、如何にも"死神"と言うのに相応しい。


「そろそろかな…」

そう小さく呟くと、視界の端に何か動くものが映った。
カチャリ、と鎌を握り直したその瞬間、驚くべき俊敏さでそちらへ向かい、あっという間に捉えると、"それ"の喉元に鎌の切り口を当てる。
その速さゼロコンマ何秒。
瞬きする暇さえ与えない。

「お前らの差し金は誰だい?」

一応人間らしき形状はしているが、それは化け物と表現するのに近い禍々しさを持ち合わせていた。

「オマエ二答エル義務ナドナイ。アノ娘ヲ寄越セ」

「はっ、低級の分際で口答えかい?」

そう言うと、彼は躊躇いなく鎌を振り、それの喉元を掻き切った。
そのまま死体を持ち上げ、力一杯放り投げる。
鎌の先についた血を、さも面倒という様に振り払うと自身の頬に赤が飛び散った。

「…害獣如きに手を出させる訳にはいかないよ」

彼は低い声で小さく呟くと、前髪を片方の手でかき上げる。一度ゆっくりと月を仰ぎ見て夜の闇へ消えていった。


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