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▼ 18 ふたりで放そうか


「ありがとう、話を聞いてもらって。大分すっきりしちゃった」

そう笑いながらセバスチャンに言うと、次はもっとお早い時間に来ていただけるとありがたいですねとのお言葉を頂いた。
全くその通りだ。こんな夜遅くに駆け込んでしまって迷惑にもほどがある。

「それにしても、彼も変わりましたね」

それはどういうことだろうか。私から見るとアンダーテイカーは常に同じだと感じてしまう。飄々としていて自分の胸の内は決してみせない。そういう所は変わらなかった。
思わず首をひねると、彼は足を組み直して言葉を続けた。

「貴方と暮らし始めてから、どこか柔らかくなった印象を受けます」

だから、自信を持って彼に一歩踏み出してもいいんじゃないでしょうか。そう言うと、セバスチャンはもう一杯ホットミルクを差し出してくれた。

「貴方は優しい。優しすぎるくらいに…その優しさに、彼は甘えすぎなのかもしれないですね」

そう言い残すと、彼は一礼して部屋を出て行った。






次の日、シエルに馬車を出してもらいアンダーテイカーの店に帰ることとなった。

「まったく…何があったのかは聞かないが、せめて僕の起きている時に来い」

「ごめんね〜」

また遊びに来るよと言うと、シエルはいつでもここに戻って来ていいんだぞ。とぶっきらぼうに言ってくれた。
帰っても良い場所がある。それは心の底からありがたく、嬉しいことだった。

でも、私の帰る場所はあの薄暗く不気味な。それでいて一番心が温まるあのお店だ。

「自分の思っていることをちゃんと口で伝えるんですよ」

セバスチャンは私の耳元に口を当てると、そう囁く。
ありがとうと告げると、馬車に乗り込みアンダーテイカーの店に向かった。




店の前に着くと、とっくに開店時間は過ぎているのに看板が"close"のままになっている。

わかっていたことだが、これは大分怒っているだろうなぁと恐る恐る扉を押すと、カウンターで眠りこけているアンダーテイカーの姿があった。
それを見て思わず拍子抜けする。

起こさないようにそおっとブランケットをかけると、彼は大きなくしゃみをして目を薄く開いた。

「ごめん、起こしちゃった?」

そう声をかけると、彼は今の状況がわかっていないかのように、小さく私の名前を呟いた。

まだ目の焦点がなんとなく合わず、ぼうっとしているようだったので濃いめの熱いコーヒーを淹れた。
黙って差し出すと、アンダーテイカーは素直に受け取る。
ブランケットを肩にかけ、身体を小さくしながらマグカップを両手で持つ姿はなんだか小さい子供のようだった。

なんだ。アンダーテイカーもこんな無防備な表情をするんじゃないか。
そう思うとなんだかおかしくなって笑ってしまう。

「…なんだい?」

「ううん、なんでもないの…あのね」

今度こそちゃんと思っていることを伝えようと、彼に向き直る。

「私、アンダーテイカーが死神だって知って、怖かったわけじゃないの。そりゃあ少しは驚いたけど…それよりも、自分が死神だと話してくれなかった事がとても。とても悲しくて、悔しかった…」

彼は中々私と目を合わしてくれなかった。
それでも…と思い、話を続ける。

「当たり前だよね。だって私はアンダーテイカーに一線を引いて接してたんだから」

自嘲気味に笑った私を、アンダーテイカーがちらりと見た気がした。

「でももうやめる。私は貴方に真正面からぶつかっていくって決めた。…それが嫌なら追い出してくれても構わない」

アンダーテイカーを大切に思ってるから。そう最後に告げると、彼はゆっくりと顔を上げる。

「小生は人間じゃあないんだよ、それが本当にどういう意味かわかっているのかい?」

「もう覚悟は決めたよ」

まっすぐ彼を見つめると、彼はあの冷たい目でこちらを見下ろしていた。
しばらくにらみ合いが続く。
結果、膠着状態に負けたのはアンダーテイカーの方だった。

彼は目を閉じ、長いため息を吐くと、好きにおし。と言って自分の部屋へ戻って行った。





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