小説 | ナノ


▼ 03 綺麗に死にました

依頼されたいつもの仕事を片づけて帰路につく。空を見上げると、どんよりと重たい雲が今にも雨粒を落としそうな気配を醸し出していた。

「やれやれ、一雨来そうだね」

大通りへ向かっていた足を止め、帽子を深くかぶり直すと近道をするため踵を返した。

そもそも小生のような人物が、大通りなど人目に付きやすい場所を通るべきではないのだ。自分のような者はひっそりと、人の陰に隠れるようにして生きるべきである。

くねくねと迷路のように曲がった裏通りに入る。客引きの娼婦、物乞いの子供達、マフィアの連中、最近イギリスで流行している阿片に侵さた酩酊状態の人々。
一本道を外れると、大通りとは正反対な荒廃した街並みがつづくのだ。

小生にはこんな世界が、お似合いだねぇ

そんなことを考えながら足早に路地裏を進むと、ふと視界の端に何かが引っかかった。
視線を右に移すと、血溜まりの中に人が倒れているのを見つけた。

「おやおや、新しいお客さんかな」

葬儀屋という職業柄、死体は見慣れている。やれやれ、これは残業だろうと倒れている人物のもとへ足を向けた。

どうやら倒れているのは東洋人のようだった。
しかし、なんだか見慣れない服装をしている。初めて見る型のコートに靴。スカートも街で見る女性の者よりかなり短く、扇情的だ。
娼婦だろうか。最近、娼婦の連続殺人が頻発している。通称切り裂きジャック事件。
それならば彼女もその事件の被害者の一人かもしれない。

傍らにしゃがみこみ首に手を当てると、まだ微かに脈を感じ取れた。

「これだけ血を流していながら、まだ生きているとは…頑丈なお嬢さんだねぇ」



彼女の持ち物を見ても、身分を証明するものは何も入っていない。服装と同じで見慣れない物ばかりが鞄から次々と出てきた。

このまま放っておけば、数時間後には確実に生き絶えるだろう。
ここで見ず知らずの彼女を助ける義理も人情もなかった。


さて、どうしたものか


風変わりな格好をした彼女は、いささか興味深い存在だった。一体どこからこのイーストエンドにやって来たのか。この様子を見ると、切り裂きジャック事件に何か関係があるかもしれない。

はぁ、と大きなため息を吐き、彼女を肩に抱きかかえると足早に自分の店へと向かった。




prev / next

[ back ]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -