小説 | ナノ


▼ 06 どこだ君の本音は


「うわーー!超いい天気!」

今日は葬儀屋と一緒にロンドンまで仕事の買い付けに出ていた。
棺を作るための木材や、防腐剤が足りなくなったとかなんとか。

露店で売っているパンの美味しそうな香りや、色とりどりの服が飾られたショーウィンドウ。大道芸を行うピエロなど、道を歩いて行くにつれ、普段目にできないキラキラとした世界に思わず目移りしてしまう。

「買い出しが終わるまで、寄り道しちゃあいけないよ」

「わかってるよ〜」

寄り道せずとも、すべてのものが目新しく、手に取らなくても見るだけで胸が高鳴ってくる。
さっきからはしゃいでばかりの私を見て、アンダーテイカーはため息をついた。

先日、遺体を棺に収めるまでの工程を教えてもらってから、私の仕事はぐんと増えた。
アンダーテイカーが遺体の縫合を済ませると、後は任せたというように私に押し付ける事が多い。
彼は最近外での仕事が多いのか、家を開ける事が度々あったため、正直生身の人間より、亡くなった人の相手をする方が多かったのだ。
アンダーテイカーなりに申し訳ないと思うところがあったのだろう。

普段なら私が店に残って留守番兼店番をするのだが、せっかく外は晴れているのに、こんな天気で外に出れないなんて拷問だ!蛇の生殺しだ!と訴えると、拍子抜けするくらいすんなりと連れてきてもらえた。

「シャバの空気は美味しいなーっ!」

軽い足取りで歩いて行くと、1つ風変わりなお店を見つけた。
看板、色、建物のセンスが周りの店と群を抜いて良く、一際目立っている。何のお店だろうと近づくと、ショーウィンドウに白を基調としたドレスが飾ってあった。
服屋のようだ。

ドレスと言ってもナイトドレスのような派手なものではない。この時代には珍しくスカートの丈が短く、シンプルだが流行の最先端をいくデザインをしていた。

「可愛い…」

思わずそう呟くと、ちょうど店員さんが出てきた所で、バッチリ目が合ってしまった。サイドポニーテールを縦に巻き、眼鏡をかけたかなりの美人さんだ。
服装のセンスも素晴らしい。
首元にファーをあしらったポンチョの下に、フリルのついたシャツと、かっちりとしたデザインのビスチェ。下はマーメイドタイプのロングスカートで品良くまとめている。

「あらまぁ〜可愛らしい東洋のお嬢さんっ!これが気に入ったのかしら?」

溢れんばかりの笑顔でそう問われるが、私にはこんな高価な服を買えるはずがない。

「え、えーっと…」

どう言い訳して退散しようか逡巡していると、肩をぐいっと引かれた。

「うちの店の子に手を出さないでくれるか〜い?」

「あら…あなたのところの子だったの」

いきなり眼鏡の女の人の表情が冷たくなる。2人は知り合いなのだろうか?

「最近預かった子でねぇ…」

「若い子にこんな格好させて…貴女のセンスを疑っちゃうわ」

確かに今日は買い物をしにきたのだが、あくまでも仕事の一環だったので、真っ黒な服を着ていた。

「でもまぁ…女のセンスはいいのかもね」

「…この子はそんなんじゃあないよ」

彼女はポケットから名刺を取り出すと、ニナ・ホプキンズよ。と自己紹介してくれた。あの不気味な人が嫌になったらいつでもうちに働きにおいでねと言葉を添えて。

「あげないさ。」

とアンダーテイカーがぼそっと呟いた言葉は私の耳には届かなかった。
そのまま肩を抱かれ、ニナさんのお店を離れる。

「ニナさんと知り合いなの?」

「ああ。彼女は伯爵の専属コーディネーターなんだよ」

なるほど。だからシエルはいつもセンスの良い服をきているのか。と一人頭の中で自己解決していると、一軒のぼろぼろな店に到着する。
アンダーテイカーのお店、いやそれ以上に古く、不気味な雰囲気を醸し出していた。

「…な、なにここ」

「小生の仕事仲間だよ。今回は一緒じゃなくていいからその辺で待っていておくれ」

暗についてくるな。ということだろう。それを察した私はその辺を散歩してくるねと言って彼から離れた。

アンダーテイカーは葬儀屋の仕事とともに、情報屋の仕事もしている。見ている限り、むしろそっちの方が主体のようだ。
情報屋の仕事が絡む時は、今のように絶対に関わらせてくれない。
それは当たり前かもしれないが、少しだけ寂しかった。

葬儀屋の仕事を手伝うようになって、少しは距離が近づけたかなと思っていたが、やはりそれは勘違いのようだ。

「…ちょっとは頼ってくれてもいいのに」

そう呟き、地面の小石を思いっきり蹴飛ばす。

「痛っ…」

誰かが目の前でしゃがみこんでしまった。どうやら私が蹴飛ばした石が頭にクリーンヒットしたようで、慌てて駆け寄る。

「ご、ごめんなさい!」

顔を覗きこむと、端正な顔立ちをした金髪の若い男性が頭をさすりながら座り込んでいた。

「いえ、僕もよそ見していたんで、すみません…僕、レオナルドと言います。貴女のお名前は?」

彼は何も気にしていないという風に笑い、立ちあがりながらそう言った。輝かんばかりの眩しい笑顔に思わず目を閉じてしまいそうになる。こんなに気持ちの良い人がいるなんて感動だ。

「由里です。あの、大丈夫ですか?」

そう聞いた所で、視界が真っ暗になり、後ろに引かれる。何が起こったのかと目の前の障害物を力一杯どかすと、それはアンダーテイカーの手だった。

「ちょっと!いきなり何するの!」

「いいや〜?仕事が済んだから帰ろうと思ってねぇ」

彼はにやりとこちらを向き、私の手を引っ張ったままずんずん歩いていった。
まったく。さっきの人とは大違いだ。何を考えているのか全くわからない。
そのまま引き摺られるようにして馬車に乗ると帰路についた。

30分ほど進んだところだろうか。馬車の揺れが気持ちよく、あともう少しで眠りに落ちそうになっていた時、膝の上に何かが触った。その刺激で目が覚め、見ると白い包みが置いてある。

「これ…なに?」

「開けてごらんよ」

目の前の物に心当たりがなく、首をひねりながらおそるおそる包みを開く。
すると、先ほどニナさんの店で見とれていた白いドレスが入っていた。

あまりにびっくりしたので、声が出ない。服とアンダーテイカーを交互に見ていると、彼は恥ずかしそうに口元に手を当て、外に視線を外した。

「…給料代わりにとっておいておくれ」

ようやく彼が私にプレゼントしてくれたのだと理解し、思わずアンダーテイカーに飛びついた。

「ありがとうっ!!」

よしておくれよと嫌がるアンダーテイカーを見ると、やめられなくなりさらに抱きつく。

知っている。彼は少しだけ不器用だが、本当は優しい。


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