小説 | ナノ


▼ 04 誘うシナプス

夕方、馬車に乗って店までたどり着く。

由里は疲れたのか、口を開けてすっかり眠りこけていた。
着いたよ早く起きな、と由里の身体を揺り動かすが、一向に起きそうにない。
仕方ないので横抱きにして扉を足で開け、店の中に所狭しと置いてある棺の上に寝かせた。

うまく執事くんに流され、由里を預かることになってしまった。執事くんが彼女を心配しているのは本心だろうが、差し詰め自分のいない間に少しでも彼女の正体を見極めろ。という意味も含まれているのだろう。

由里の行動を今まで見ていたが、少なくとも何らかの悪意を持っているわけではなさそうだ。
それどころか妙に無防備で疎いというか、人を疑わなさすぎるところがある。

まあ自分の仕事に支障が出さえしなければ何でもいい。


「あんまり関わるつもりじゃなかったんだけどねぇ…」

自分も棺に腰掛け、呆けた顔をして寝る由里の頬を、長い爪でそっとなぞる。
そのまま首元までたどり着くと、片手で細い首にゆっくりと力をこめた。
少し苦しかったのか、由里は身をよじる。
どくどくと手の下で脈を打つ血管、そして肌から伝わってくる温かい体温が生きている事を示していた。

「…んん」

由里が目を覚ましたので、ぱっと首元から手を離す。

「起きたか〜い?」

ごめん寝てたよ、と大きな欠伸を繰り返す彼女に紅茶を差し出す。
それから由里が生活する部屋、お風呂場、キッチンなどの場所に案内し、細々した事を説明した。

「小生は基本仕事場にいるけど、由里は好きに暮らすといいよ」

由里はへ?と首を傾げ、こう言った。

「何言ってるの?ここに住まわせてもらう分、きっちり仕事は手伝わせてもらうよ」

今度は小生が首を傾げる番だった。聞いてなかったのだろうか。小生は葬儀屋、死体を扱う仕事をしているのだ。中には目も当てられないような状態で運ばれてくるお客さんもいるの。それこそ普通の人が見れば卒倒してしまうような姿で。

まだ若いこの子に、そんな仕事ができるとは到底思えなかった。
それをやんわりと告げる。

「死体を扱っているんだよ?中には無残な姿で運ばれてくるものだってある」

「うん。知ってる。…それでも手伝いたいの!…確かにいきなりスプラッタ見るのはきついけど…」

できることから少しずつ始めるから、お願いします、と頭を下げ、大きな瞳で見つめられる。

「…わかったよ」

大きなため息をつき渋々了承すると由里はパッと顔を輝かせて、ありがとう!と言った。

なんというか…目が離せない。




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