小説 | ナノ


▼ 21 最後は結局虚しい訳で


「なかなかやるじゃないの〜セバスちゃんっ!」

「気持ち悪いこと言わないでくださいっ」

グレルの斬撃がセバスチャンの頭をかすめる。間一髪で避け、すかさず蹴りをお見舞いするが躱されてしまった。
しかし、一瞬の隙を突かれ壁際まで追い込まれる。目の前に高速回転する刃が迫り、グレルの手首を掴んで必死に抵抗した。



シエルは葬儀屋が抱え込む手を払い、マダムの方へつかつかと歩み寄る。彼は怖いくらいに無表情だった。

「…何故?」

「今更何がわかるの?あんたと私は"罪人"と"番犬"。番犬を刈らなければやられるなら…道は一つよ」

マダムは下を向き、震える声で言い放つ。すると、顔を上げてシエルの方を向き、何かを振りかざして喚くように叫んだ。

「あんたなんか生まれて来なければ良かったのよ!!!!!」

シエルの眼前に光るものが力任せに振り下ろされる。マダムの顔は鬼気迫っていた。


「坊ちゃん!!!」

その瞬間、セバスチャンはカッと目を見開きグレルの刃で自分の肩が避けるのも構わず、シエルの元に飛び込む。

「セバスチャンやめろ!殺すな!」

シエルの言葉にセバスチャンは既の所で手を止めるが、その表情は殺気に満ち溢れている。

「…やっぱりだめ。私にはこの子は殺せない…」

マダムは手からナイフを滑り落とし、膝をがくりと地面につけた。

「散々アタシが協力して、女共を殺ってきたくせに。さっさとそのガキ殺しなさいよ!」

「…でも、でもこの子は私の…!」



その言葉が言い終わる前にグレルがぐっとチェーンソーを掴むのがわかった。
セバスチャンはシエルにかかりきりで対応できない。

マダムが刺される。

そう直感した私はアンダーテイカーの制止する手を振り払い、マダムの元へ駆け寄った。
グレルが刃を突き出し、それを見たマダムは驚愕の表情を浮かべる。

…間に合え!

全てがスローモーションに見えた。

マダムを思い切り突き飛ばし、硬い石畳の上に倒れこむ。


「由里ーーーっっ!!」



目を開けると地面に横たわるマダムの姿が見えた。よかった、間に合った。
立ち上がろうとするが、身体に力が入らない。あれ、と思うと右半身が真っ赤に染まっていることがわかった。
ゆっくり後ろを振り向くと、肩に大きなチェーンソーがぐさりと刺さっていた。
どくどくと血がどんどん溢れてくる。

「由里っ!!」

私の名前を呼ぶ声が聞こえる。

あ、れ。

私、ここで終わっちゃうの…?

目の前が白くかすみ、そのまま意識が暗転した。





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