小説 | ナノ


▼ 16 用件は手短に

午後18時30分、パーティにうまく潜入できた私たちは各自調査を遂行していた。

ドルイット子爵主催のパーティはある疑惑がかけられていた。表向きはただの舞踏会と見せかけているが、裏では黒魔術を行い、その供物として娼婦が殺されているのではないか、と。
娼婦を惨殺してその臓器を供物にするなど…なんて恐ろしい。背筋に冷たいものが走る。

私達は怪しまれないよう、各自時間をずらしてパーティ会場に入った。
馬車も分けていたため、朝からアンダーテイカーに会っていなかった。いつもの帽子と黒づくめの神父服を探すが、どこにも見当たらない。
どこにいるんだろう…

少し不安になり始めた時、後ろから手をぐっと引かれる。

「お嬢さん、小生と踊っていただけますか?」

振り向くと、そこには黒の燕尾服で身を包んだアンダーテイカーが立っていた。
シンプルなデザインが彼の元のスタイルの良さを際立たせており、いつもの怪しげな雰囲気はなく、どこか洗練された感じが彼から漂っている。その姿に思わず目を見張った。

「アンダーテイカー!」

「しっ。そんな大きな声で名前を呼ぶんじゃないよ」

彼はわたしの手を取り、腰を引き寄せると広間のダンスに混ざる。ダンスフロアでは、定番のワルツ曲、ショパンのワルツ第7番が演奏されていた。
いつもと違う雰囲気だからだろうか。少しだけ顔が熱くなる。


「…アンダーテイカーもダンスできるんだね」

「ヒッヒッヒ…舐めてもらっちゃ困るよ」

アンダーテイカーにリードされ、1週間身に覚えこませたステップを踏む。慣れてくると音楽に身体を任せて舞うのは実に楽しく、心地よい。彼のダンスは意外と上手く、なんだか少し面白くなかった。

「シエルたちは?」

「ドルイット子爵に近づいているよ」

首尾は上々のようだ。ドルイット子爵は彼らに任せて、私は自分の仕事をしよう。

「…調べたい事があるから、あの扉を見張っていてくれない?」

そう伝えると、彼は目を細めて声音を低くした。

「何をする気だい?」

「…ちょっと気になることがあって。大丈夫よ、変なことはしない」


メイリンに調べてもらった資料。それはドルイット子爵邸の見取り図だった。物置から地下室、各部屋の配置場所まで全て頭に入っている。

「3分だ。その間に全て済ましておいで」

「ありがと!」

目を見てにっこり微笑むと、彼の手をすり抜け、二階へと続く扉へ向かった。

3分か…ちょっと厳しいかもしれない。誰もいない真っ暗な廊下を音を立てないように走り抜ける。確かドルイット子爵の私室は次の角を曲がった突き当たりだ。

木製の扉をゆっくり押し、部屋にするりと忍び込む。何十畳あるのだろうか…子爵が好みそうな色とりどりのオブジェ、宝石が所構わず飾ってあった。

シエルの屋敷の方が断然センスが良い。
壁にかかってある鹿の首に向かってべー。と舌を突き出した。
なんでお金持ちは皆、動物の首を飾ろうとするのだろうか。わけがわからない。
動物愛護団体に訴えるべきだと明後日な方向へ頭を回す。

「趣味悪いなぁ…」

そう呟きながら目当の物を探していく。気分はさながらエントラップメントのジンだ。
まぁ、私は金髪碧眼の美女ではないんだけれど。
映画の主題歌を口ずさみながら一つの引き出しに手をかけるが、案の定鍵がかかっている。そう、大事なものは大概こういう場所に入っているのだ。懐から針金を二本取り出し、手際よく針を動かす。
かちり、と音がして鍵が開いた。

引き出しをゆっくり引っ張ると…

ビンゴ。

お目当の資料が入っていた。
窓に寄り、月明かりに照らしながら十数枚の紙に素早く目を走らせていく。

「…うーん、やっぱりそうか」


紙を畳み込み懐にしまうと、早々に退散しようと部屋を後にした。
廊下に飛び出し、元来た道を足早に歩いていると、突然誰かに手首を掴まれる。

「おや、麗しき夜の蝶、こんなところでどうしたのかな??」

…ドルイット子爵!!
どうしてこんなところにいるの?
シエルが引きつけているはずでは?
と一瞬焦るが、動揺を悟られてはいけないと、早鐘を打つ心臓を抑えつける。

「…ご、ご機嫌ようドルイット子爵、実は迷ってしまって…」

「それはいけない、私が会場まで案内しよう。…珍しい髪と目の色をしているね。まるでカリブの海に沈む黒蝶真珠のようだ!東洋の方かな?」

よかった、なんとか誤魔化せたようだ。ふぅと一息つき日本人であることを告げると、子爵の瞳が一瞬光った気がした。

「…ほう、日本から…それは丁度よかった」

適当に相槌を打ち、隣を見ると子爵の姿が消えていた。…え?と思った瞬間口にハンカチを当てられる。身をよじって彼の手から逃れようとするが、身体から力が抜けていき、そのまま意識が暗転した。





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