小説 | ナノ


▼ 07 はいストップそこまで


「さぁ着いたよ、ここがファントムハイブ邸だ」

アンダーテイカーに馬車から降ろされ、到着したのは…
めちゃくちゃ大きな屋敷だった。もはや城だ、天守閣だ。
広い庭には色とりどりの花々が咲き乱れ、噴水からは水がほとばしっている。

どんだけのお金持ちなんだよ…と少々心の中でどん引きしながら足を進める。玄関扉をくぐると、光り輝く大きなシャンデリアに長身、眉目秀麗の男性が出迎えてくれた。

「ようこそ、いらっしゃいました。私はファントムハイブ家の執事を勤めております、セバスチャン・ミカエリスと申します。そしてこちらは当家の主人、シエル・ファントムハイブ伯爵でございます」

執事さんの手が促す方向に目線をやると、階段からまだ10代前半くらいであろう男の子が降りて来た。
…この子が伯爵!?伯爵と言うともっとおじいさんを想像していたので絶句する。
こんな小さな子が切り裂きジャック事件を調べているのだろうか…

「言った通り連れてきたよ〜。この子が例の新庄由里チャンだ」

「よ、よろしくお願いします」

「よく来た、話は聞いている。入れ」

伯爵は背中を向けると、隣の部屋に入っていった。アンダーテイカーに続いて入ろうとすると、執事さんに呼び止められる。

「失礼ですが由里様、その様子を見ればお召し物が身体に合っていないご様子。こちらで用意させていただきましたので、どうぞお着替えください」

確かに着ている物はアンダーテイカーに貸りた物で間にあわせていたため、サイズは合っておらずブカブカだった。上流階級である伯爵を前に、この格好で話をするのも失礼に当たるだろう。ありがたく着替えさせてもらうことにした。

用意してもらった服は、派手すぎない水色を基調としたシンプルな形のドレスだった。フリルも少なく、品の良い作りで生地の手触りから良い物だということがすぐにわかる。

ドレスに合わせ、髪型もアップスタイルにしてもらう。失礼いたします、と執事さんは私の後ろに立ち、髪をブラシでとかし始めた。

「とても綺麗な黒髪をしておられますね。東洋の方ですか?」

「えぇ、そうです。こちらでは珍しいかもしれませんが」

「いいえ、そんなことはありませんよ。本日いらっしゃっているお客様にも東洋の方がおられます」

にこり、と笑顔のお手本のように、綺麗な笑みを鏡越しに見せられ、思わず下を向いてしまう。これだからニ枚目は苦手なのだ。
しかし冷徹そうな見た目とは違い、以外にも言葉を交わしてくれるため、先ほどから疑問に感じていた事を思い切って尋ねた。


「そういえば、ファントムハイブ伯爵はあの年齢で伯爵の地位を継がれたのですか?」

するとセバスチャンは一旦髪をとかす手を止めて、少し間を置くと話し始めた。

「…そうですね。伯爵は幼い頃、両親を亡くし12歳の時に現在の地位をお継ぎになりました。しかし経営の才に恵まれ、約1年でファントムハイブ社をイギリス一の玩具、お菓子メーカーに育て上げたのです」

想像以上の話に、思わず絶句する。
私より一回りほど小さいのに、その背に負っているものの大きさを思うと可哀想に思わざるを得なかった。13歳。まだまだ甘え、遊びたい年頃だ。

「…失礼な事をお聞きして、申し訳ありません」

「いいえ、良いのです。お客様が疑問に感じられるのも当然のことでしょう。…はい、完了いたしました」

話をしている間に綺麗に髪を結われていた。なんて器用な執事さんなんだこの人は。

そのまま長く長く長い廊下を歩き、応接室に通される。するとそこにはアンダーテイカー、伯爵の他に3人の人物が座っていた。




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