小説 | ナノ


▼ 05 どこまでも嘘

人生のやり直し。まさか殺人事件の容疑者からスタートするとは思っていなかった。
神様ってやつは本当に非情だ。
無慈悲すぎて涙がちょちょぎれそうだ。

だけどここで負けてられない。第2の人生は始まったばかりなのだから。ここで躓いていてはどうしようもない。
ここで生き残る為、どうにかして無実だということを証明してみせる。

アンダーテイカーに向き直り、顔を見つめて話し始めた。

「傷がなぜなかったのか、それはわかりません。私が犯人ではないのか、と疑う気持ちは正直わかります。
…でも私は絶対に人を殺していません。その事を必ず証明して見せます」


そうはっきり言い切ると、彼はぽかんとしてこちらを見つめていた。次の返答を待つが何も言われない。

…え、何か変なこと言った?
若干不安になり彼の顔色を伺う。

「…何か変な「フッ…ブフッ…ブフォッ…ギャーッハッハッ…アッハッハッ」」

いきなり火がついたように笑い出したアンダーテイカーに戸惑う。
いや、どう考えてもここは笑う場面じゃないだろう。やっぱりこの人頭がちょっとダメなのだろうか。

「ブフッ……クククッ…っはぁー」

やっとおさまったようで、肩で息をしながら椅子にもたれかかる。

「…えーと?」

「なかなか面白いじゃないか」

彼の言っている意味がわからず、眉をひそめた。余程顔をしかめていたのだろう。なんて顔してるんだいと言われ慌てて顔を元に戻す。


「…いや、冗談じゃなくて私本気で」


「わかってるよ、ただちょっと意外でねぇ?」

彼は口元をにやりと歪め、話を続ける。

「だってそうだろう?君は記憶がない。お手上げの状態だ」

おどけたように両手をあげ、万歳のポーズをとる。ふざけているんだろうか。

「なのに、自分が加害者と疑われる事にまで頭を回して、無罪の証明をしようって言うんだ。実に愉快じゃないか〜」

そう言うと、またおかしそうに喉奥をくつくつと鳴らして笑った。


「いいよ〜、自分の手でこの事件と関係ない事を証明してみるといい。その途中でもしかしたら何か思い出すかもしれないしね。小生も少しは手伝ってあげよう、対価はさっきもらったし」


「…本当ですか!」


よくわからないけど、本当はいい人なのかもしれない。見ず知らずの私を拾って、その上無罪の証明を手伝ってくれると言うのだ。人は見かけによらないとは、きっとこういう事だ。


しかし、さっきの彼の言葉が気にかかった。対価、それは生半可な気持ちでは払えないものだ。この身をもって経験している。
それを払った?いや、まだ何もしていない。逆に世話をしてもらってばかりだ。

ごくり、と唾を飲み込み彼に尋ねる。

「あの…対価、って?」

すると彼は何を言ってるんだと言うような顔をしてこちらを見つめた。

「あぁ、笑いだよ。小生は情報を与える代わりに極上の笑いを提供してもらうのさ〜〜ヒッヒッヒ」

そう言うと、お茶を淹れ直してくるね〜と言いながら扉の奥に消えた。

前言撤回。やっぱりこの人、変な人だ。





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