アトラクトライト | ナノ

 存在意義(1/4)



ガラス越しに見える傷だらけのあの子の姿を見て、今までの俺の言動に後悔しか残らなかった。

千春が死んで絶望に打ちひしがれた俺をあの子は必死に支えようとしてくれた。
自分も母親が死んで悲しくてたまらなかったはずなのにそれを隠していつも笑顔で寄り添おうとしてくれた。




「おはよう、父さん」

「初めて作ったから自信ないけど…どうかな?」




だけど千春によく似たその笑顔を見る度に奪ってしまった自分への憎しみと後悔を思い出して辛かった。
結局のところこの例えようのない気持ちを、言葉にできない思いをぶつける事も受け入れる事も出来ず俺は逃げることを選んだ。

いや……違うか。




「俺なら大丈夫だよ」




私はそれすらもあの子に選ばせてしまった。
そして俺はそれに甘んじて逃げた。
千春との過去に縋って、今を生きようとするあの子から…。

私は…………最低だ。







神野の事件から一週間。
ヒーロービルボードチャートJPで近年不動のNo.1だったオールマイトのヒーロー活動引退を表明。
日本だけに留まらず、本場のアメリカでも騒然となるほどの大ニュースだった。
そしてNo.4ヒーローのベストジーニストも一命を取り留めたものの長期の活動休止。
合宿でもお世話になったNo.32ヒーローのプッシャーキャッツの一人であるラグドールも無事救出されたが拉致後“個性”が使用できなくなり活動を見合わせることに。

あの一夜にして多くのヒーローたちが大打撃を受けた事件は“神野の悪夢”と呼ばれた。
これから一体どうなるんだろう…。


そして────



「今日からハルくんが普通病棟に移り面会が出来るようになった。緑谷くん、轟くん、クラスの代表として病院やご家族に迷惑をかけないように気をつけよう!」



オールマイトと別れ、家路につくと相澤先生からクラス全員に向けて連絡があった。
それはICUにいる間はハルへの面会は不可で、指示があるまで基本的には外出を控え、自宅で大人しくしているようにと言った内容だった。

それから1週間が経ち、普通の病室に移ったためお見舞いに行くことが出来るようになった。
だが、全員で押しかけると病院やハルの家族に迷惑がかかるから日にち毎に誰が行くか決めて、今日は僕と飯田くんと轟くんの三人が向かうことに。



「まだ目覚めてないんだってな」

「みたいだね…1週間って長いけど……」

「…俺らがうじうじしても仕方ない!相澤先生も言っていたいが眠っていても声は聞こえているかもしれないし、元気出して行こう!」

「飯田くん……そうだね!元気出していこう!!」

「その意気だ!おーう!!ほら轟くんも!!」

「お、おう」



飯田くんの明るさに釣られて緊張がほぐれて行く。

飯田くんが受付をしてくれている間、僕と轟くんは後ろで待っていた。
その時、轟くんがタワレコの袋を持っていたことに気づいて、珍しくてどうしたのか聞いてみた。



「これか?あいつが好きって言ってた歌手のCDだ。バスの時にもうすぐ新曲の発売日だって言ってたから買ってきた」

「そうなんだ」



水溜まりに青空が反射したシンプルながらも綺麗な写真のジャケット。
“アイミジン”…って上鳴くんや耳郎さんも好きって言っていたような…?



「今まで音楽とか興味なかったけど、あいつが聴かせてくれてちょっとだけ気になったから覚えてたんだ」

「ハルは登下校の時によく音楽聴いてるよね。僕も音楽はあんまり詳しくないから今度おすすめ聞いてみようかな」

「ああ」



轟くんと話していると受付を終えた飯田くんが戻ってきて三人で病室へと向かった。





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