◎ 混乱渦巻き(5/5)
「ねえお茶子ちゃん。楽しいねえ。恋バナ楽しいねえ!」
捲し立てるように話すトガに呆気を取られている好きをつかれ、麗日の左の太ももに注射器が突き立てられる。
するとトガが話していたように針から血が吸われトガの背負う機械へと流れていく。
その時だった。
「麗日!?」
「障子ちゃん!皆…!」
草陰から障子と緑谷、轟と気を失って背負われているB組の円場が姿を表す。
さすがに多勢に無勢だと感じたトガは麗日を突き放し離れると草むらへと逃げようと試みる。
「人増えたので殺されるのは嫌なのでバイバイ」
だが障子に背負われたボロボロの緑谷を見ると再びトガの頬が赤く染る。
この状況下でなければまさに恋が始まるようなワンシーンだったがトガは言葉通り戦線から離脱した。
麗日後を追おうとしたが、どんな“個性”かもわからない中で深追いは危険だと蛙水は止めた。
近くに他の敵がいないことを確認すると再会を喜び合いまた足を進めることに。
「そうだ。一緒に来て!僕ら今かっちゃんの護衛をしつつハルを探してて、見つかり次第施設へ向かおうとしてるんだ」
緑谷の言葉に麗日と蛙水は顔をしかめる。
すると蛙水から信じ難い言葉が発せられる。
「爆豪ちゃんを護衛?その爆豪ちゃんはどこにいるの?」
「え?何言ってるんだ。かっちゃんなら後ろに…」
振り返るとそこには爆豪の姿はなかった。
それどころか最後尾の護衛をしているはずの常闇の姿もなく、予想だにしない展開に言葉を失っていると頭上から聞き覚えのない男性の声が聞こえた。
「彼なら俺のマジックで貰っちゃったよ」
「!!」
木の上には仮面にスーツ、シルクハットを身につけ、一昔前のマジシャンのような風貌をした男、敵名Mr.コンプレスの姿があった。
Mr.コンプレスはビー玉のような小さな球体を二つ投げながら緑谷たちを見下ろしていた。
「こいつぁヒーロー側にいるべき人材じゃねえ。もっと輝ける舞台へ俺たちが連れてくよ」
「────!?っ返せ!!?」
「返せ?妙な話だぜ。爆豪くんはモノでもねえ。彼は彼自身のモノだぞ!!エゴイストめ!!」
「返せよ!!」
「どけ!」
Mr.コンプレスが立っている木も一緒に轟は氷結で攻撃を仕掛ける。
するとMr.コンプレスは軽やかに飛び上がり攻撃を回避すると続けた。
「“それだけじゃないよ”と道を示したいだけだ。今の子らは価値観に道を選ばされている」
「…………!爆豪だけじゃない…常闇もいないぞ!」
背後にいた二人を音もなくさらうことの出来るMr.コンプレスの個性に不気味さも感じながらも轟は睨みながら言った。
「わざわざ話しかけてくるたァ…舐めてんな」
「元々エンターテイナーでね。悪い癖さ。常闇くんはアドリブで貰っちゃったよ。ムーンフィッシュ…“歯刃”の男な。アレでも死刑判決、控訴棄却されるような生粋の殺人鬼だ。それをああも一方的に蹂躙する暴力性。彼も良いと判断した!」
「この野郎!!貰うなよ!」
「緑谷落ち着け」
「!」
するとMr.コンプレスは耳元に手を当てる。
まるでインカムか何かで通信を受け取ったかのやうな素振りを見せると再び緑谷たちへ声高らかに言い放った。
「水科くんも俺の仲間の力によって貰ったよ。彼の過去を君たちも見ただろう?」
「!」
「水科くんは不条理な社会に縛られ、辛く、苦しい思いをしてきた。俺たちも彼と同じだった。だからこそ俺たちが新たな道を示すのさ。社会を変える力を持つのはヒーローだけではないとな!」
「!ふざけんな!!返せ!みんなを返せよ!!!」
「っくそ!麗日、こいつ頼む!」
轟は背負っていた円場を近くにいた麗日へ任せると先程とは比べ物にならない広い範囲を凍らせる。
だがMr.コンプレスはそんな轟の氷結攻撃を軽々と避ける。
「悪いね。俺ァ逃げ足と欺くことだけが取り柄でよ!ヒーロー候補生なんかと戦ってたまるか」
Mr.コンプレスはまた耳元に手を当てた。
「開闢行動隊!こちらも目標…爆豪回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!!予定通りこの通信後5分以内に回収地点へ向かえ!」
「幕引き…だと」
「ダメだ…!!!」
「させねえ!!絶対逃がすな!!!」
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