◎ 混乱渦巻き(4/5)
場所は変わり麗日と蛙水も敵に遭遇しており、敵によって切りつけられた麗日は傷口を抑えた。
そんな麗日を心配しつつ蛙水も警戒を強めた。
二人の視線の先には敵連合のトガの姿。
トガは麗日を切りつけたと思われる小型ナイフを嬉しそうに見ながら言った。
「浅い少ない!」
「急に切りかかって来るなんてひどいじゃない。何なのあなた」
「トガです!二人共カァイイねえ。麗日さんと蛙水さん」
トガは名前呼びながらそれぞれをナイフで指す様子から名前がバレていることを悟る。
そもそも体育祭などで個性含めて自身の情報が筒抜けなのに対して、トガの素性や個性は分かっていないため、明らかに麗日と蛙水は不利な状況下に置かれていた。
トガは背負っていた装置に手をかけた。
「血が少ないとね、ダメです。普段は切り口からチウチウと…その…吸い出しちゃうのですが、この機械は刺すだけでチウチウするそうで、お仕事が大変捗るとのことでした。刺すね」
右手には小型のナイフ、左手には機械から伸びた先端に針が着いた注射器のようなものを握り二人目掛けて襲い来る。
それを見た蛙水は冷静に麗日を自身の舌で持ち上げるとトガの攻撃が当たらないように横へと投げた。
「お茶子ちゃん、施設へ走って。戦闘許可は“敵を倒せ”じゃなく“身を守れ”ってことよ。相澤先生はそういう人よ」
「梅雨ちゃんも!!」
「もちろん私も…つつ!」
「梅雨ちゃん」
伸びた舌をトガは小型ナイフで切りつける。
蛙水は舌を戻すと自身の名前を呼ぶトガを怪訝そうな表情で見つめた。
「レロ…」
「梅雨ちゃん…梅雨ちゃんっ!カァイイ呼び方。私もそう呼ぶね」
「やめて。そう読んで欲しいのはお友達になりたい人だけなの」
「や───じゃあ私もお友達ね!やったあ!」
「!!」
離脱しようと飛ぼうとした蛙水めがけて右手で持っていた注射器を投げる。
するとその注射器は蛙水の髪の毛ごと木に刺さり身動きが取れなくなってしまう。
そんな蛙水にトガは笑顔を浮かべながら目の前まで距離を詰める。
「血ィ出てるねえ、お友達の梅雨ちゃん。カァイイねえ。血って私大好きだよ」
「梅雨ちゃん!!離れて!!」
そんなトガ目掛けて麗日は蛙水を救けるべく駆け寄るとトガは空いている左手に持つナイフで切りつけようとする。
「(ナイフ相手には!!片足軸回転で相手の直線上から消え、手首と首ねっこを掴み、おもっくそ引く!G・M・A(ガンヘッド・マーシャル・アーツ)!!)」
麗日は前期のガンヘッドでの職業体験で学んだ近接格闘戦術を生かし、トガの攻撃をいなし、地面へと組み伏せることに成功。
そんな麗日に蛙水もすごいわと感嘆を漏らした。
蛙水の舌を使って拘束しようとした時に組み伏せられたトガが横目で麗日を見ながら笑顔をうかべた。
「お茶子ちゃん…あなたも素敵。私と同じ匂いがする」
「?」
「好きな人がいますよね」
「!?」
「そしてその人みたくなりたいって思ってますよね。わかるんです。乙女だもん」
「勝つ!!勝って、私もデクくんみたいに」
自分も確かに緑谷に対してそう思ったことを思い出す。
初めは穏やかだったトガの笑顔が徐々に頬を赤らめ、狂気的な笑顔へ変わっていき、麗日の背筋に悪寒が走る。
「(何……この人…)」
「好きな人と同じになりたいよね。当然だよね。同じもの身につけちゃったりしちゃうよね。でもだんだん満足できなくなっちゃうよね。その人そのものになりたくなっちゃうよね。しょうがないよね」
あなたの好みはどんな人?
私はボロボロで血の香りがする人。
大好きです。
だから最後はいつも切り刻むの。
prev|
next