◎ 会うは別れの始め(4/5)
「…………」
「あらら。もう終わり?」
「……んなわけ────!!」
増幅させた水を操り俺も野狐へと攻撃を仕掛けていく。
だが結構なスピードで仕掛けているはずなのに見極められて軽々と避けられてしまう。
攻撃や回避に迷いがなく身のこなしも軽い。
会敵してから少しの時間にも関わらず相当な対人戦を経験していることを肌で感じる。
「(手を抜くとこっちがやられるな───!)」
野狐は攻撃をくぐり抜けて目の前に現れたかと思うと血で固めて作った刃物を俺目掛けて振り下ろそうとする。
「!」
「(なんだ…!?)」
だが、すぐに振り下ろせば良いはずなのに野狐は不自然に一瞬動きを止めたように見えた。
それに疑問を感じたけどなりふり構っていられない…!
チャンスだと言わんばかりに血の刀をウォーターカッターで切り裂き、武器を奪うと迫っていた野狐の目の前で水圧を使って飛び上がり水で目をくらませながら背後に回る。
入学してすぐの演習で爆豪の真似してやったあれだ。
そのまま水を野狐の背中へ目掛けて放つと勢いのまま飛ばされていく。
立て直される前に俺も野狐を追うと拳を握りしめた。
「(これで終わりだ────!)」
「…チッ……何やってんだよ……」
フラフラと立ち上がる野狐。
俯いていた顔をゆっくり上げながら俺の攻撃に備えようとした時だった。
「!」
「まだまだこれからだろーが…!」
つけていた狐面は先程の攻撃で外れてしまってついに野狐の顔が顕になる。
それを見て言葉を失う。
「よーし。放課後はハルんち集合な!」
「何年前から一緒にいると思ってんだよ」
「将来ヒーローになるなら雄英一択だろ!!」
栗色の髪の毛に亜麻色の色素の薄い瞳。
数年前、毎日のように見ていた姿を間違うはずなんてない。
「…………!!!」
2年ぶりに会った親友は少しだけ大人びていたがどことなく残る昔の面影に懐かしさを感じた。
だがどうしても先程まで感じていた違和感を拭いきることが出来なかった。
だけど顔を見て本人だと理解していくにつれてそんなのどうでも良くなった。
「ヒロ……!!!」
握りしめた拳でトドメを刺すつもりだった。
(ずっと探していた)
そして拘束して警察に引き渡すつもりだった。
(ずっと会いたかった)
俺の握りしめた拳は空中で止まると行き場をなくした。
「…………なんで…っ」
俺の記憶にはない狂気的な笑顔を浮かべた表情とは裏腹にヒロの目からは止めどなく涙が零れていた。
その理由を問いかけた瞬間、野狐も泣いていることに気づいたのかハッとした顔で頬を拭った。
その時だった。
「おいおい。なんでヒーローが敵にトドメを刺さない?」
「!」
再会を懐かしむ間もなく突然背後から聞こえてきた野狐でも俺でもない聞き覚えのない男の声。
慌てて振り向くと全身の肌がツギハギの男がいて、綺麗なエメラルドグリーン色の不気味な目が俺を捉えていた。
次の瞬間、真っ青な炎が俺の眼前を埋め尽くすと同時に俺の意識は闇へと沈んで行った。
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