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 会うは別れの始め(2/5)



「……これ…!!」



地面に点々と続く血の跡。
つい先程のものなのか血は酸化しておらず綺麗な赤色のまま。
微かに香る鉄の匂いで2年前の出来事が脳裏を過ぎる。
震える拳を握り直すと意を決したような表情を浮かべ、ハルはその跡を辿った。

すると明らか有毒そうなピンク色のガスが目の前に立ちはだかる。
ガスの中には入っていないもののこの近距離なら少なからず吸っていてもおかしくない。
だけど体に影響が出てないのを見るに即死効果とかのあるものではないな。



「(気休めかもしれないけど…)」



ポケットに入れていたハンドタオルを水で濡らしそれを口と鼻を覆うように当てるとガスの中へと飛び込んだ。
血痕を辿っていると充満しているところから近いが目視ではガスが確認できないところで途切れており、その周辺を探ってみると────



「誰…!?」

「おまえ…青山!!」

「その声は───ハルくん…!」



草むらの中にいた青山を見て安心したのもつかの間。
その奥には血だらけになって倒れている耳郎がいて、そんな耳郎を青山がわからないなりに必死に止血をしていたのだ。
俺は着ていたパーカーを脱いで傷口に当てて止血を手伝うが一向に血が止まる気配は見られない。



「何があった!?」

「ガスのせいで2人が気絶して…その隙を敵につかれたんだ。葉隠さんはなんとか護ったけど耳郎さんが───」



青山の言葉通り、すぐ近くに葉隠が横たわっているのが着ている服から確認することが出来た。
葉隠は青山の口ぶりから怪我はしてないみたい…不幸中の幸いとはまさにこの事か。

いや、だけど───…



「……っ!(傷が深い…血が止まらない……!)」



鼻をくすぐる鉄の嫌な匂いが俺の記憶を呼び覚ます。




「……ハルくん、ありがとう」

「駄目だよ。ハルくんは…生きて」

「これが…最期の約束」




もう嫌だ。

目の前で誰かが死ぬのはもう───



「…っ耳郎!!頼むから目ェ開けてくれ!!!

「!ハルく───…」

「青山も声掛けてくれ!!」

「!!」




絶対に嫌だ。




「耳郎!耳郎!!」

「耳郎さん!!!」



二人で懸命に呼びかけるが耳郎からの反応はない。
それどころかどんどん顔色が悪くなっていき、握った手は冷たくなっていっていた。

俺の個性…“譲受”は互いの了承がないと発動しない。
だからなんとしても耳郎の意識を一時的にでも良いから取り戻させなくちゃいけないのに……!



「……っ耳郎…!!」

「…………」

「頼むから……反応してくれよ……!!」



その時俺が握っていた耳郎の指先がピクリと動く。
ハッとして顔に目を向けると苦しそうな表情を浮かべながらも薄らと目を開いた。



「……い゛っ………うち……死───」

「死なせるもんか」

「……!」

「みんなで帰ろう。だから…死ぬなよ耳郎…!」

「…………だ、ね…」



力なく耳郎が笑ってくれたその時だった、緑谷の時同様繋いだ手から光が溢れる。
すると耳郎の負った怪我を俺が“譲受”していくとみるみるうちに傷は塞がり耳郎の顔色も戻っていく。



「傷が────!」

「ハァ…ハァ………」



ほぼ傷が無くなったことを確認すると俺は“譲受”を終了した。
だけど肩代わりした怪我の痛みは想像を絶するもので冷や汗を流し、腹部を抑えながら肩で息をしていると恐る恐る青山が俺に向かって大丈夫と声をかけてくれた。
そんな青山を不安にさせないように今できる精一杯の笑顔を向けながら大丈夫と言い放つ。



「……さっきの君の過去といい…君の“個性”って────」

「…俺の“個性”の話は後だ。とにかくここを離れよう」



その時突然感じた殺気。
殺気を感じた方向へ振り向くと物陰目掛けて水鉄砲を放つ。
突然の俺の行動に青山は驚いていたが水鉄砲を避けて現れたひとつの影に気づくとすぐさま臨戦態勢へと入る。





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