◎ 会うは別れの始め(1/5)
同時刻。
敵連合アジト内。
バーのカウンターに座る死柄木に対して、雄英林間合宿の襲撃に向かったメンバーに対して大丈夫かと黒霧は不安を漏らす。
だが死柄木は迷いなく首を縦に降ると2枚の写真を見ながら言った。
「俺の出る幕じゃない。ゲームが変わったんだ。今まではさ、RPGでさ、装備だけ万端で…レベル1のままラスボスに挑んでた。やるべきはSLGだったんだよ。俺はプレイヤーであるべきで使えるコマを使って格上を切り崩していく…その為、まず超人社会にヒビを入れる」
緑谷との接触後、死柄木の様子が変わった。
USJ襲撃や保須市襲撃の時にヒーロー側から幼児的万能感の抜け切らない“子ども大人”と言われていた彼から落ち着きを見せ、一度立ち止まり周りをよく見渡すことが出来るようになっていた。
「開闢行動隊。奴らは成功しても失敗してもいい。“そこに来た”って事実がヒーローを脅かす」
「捨てゴマですか………」
「バカ言え!俺がそんな薄情者に見えるか?奴らの強さは本物だよ。向いてる方向はバラバラだが頼れる仲間さ」
死柄木の手にある写真。
そこには雄英体育祭の授賞式に暴れないように拘束された爆豪とヒーロー殺しと会敵した時に眉間に皺を寄せて睨みつけているハルの姿がそれぞれ映っていた。
死柄木は不気味に笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「法律で雁字搦めの社会。抑圧されてんのはこっちだけじゃない…成功を願ってるよ」
◇
緑谷に洸汰を施設まで送り届けるのを任せて俺は一足先に森に残された面々を救けるべく上から被害の状況を確認した。
俺が対応出来るであろう火災が酷い箇所に狙いを定めると水を増幅させる。
「…ハル」
「!」
「無事でいてね」
「……当たり前だろ。緑谷も無理すんなよ」
きっとお互い言いたいことはあった。
だけどそれをぶつける時間が勿体ないという気持ちも同じで目線を交じ合わせると頷きあった。
そしてそれぞれが目的地に向かって足を進めた。
俺は高台から落下しながら増幅させた水を肝試しの範囲内の一番近い所で起こっている火災にターゲットを絞るとそこに雨を降らせるように水を浴びせた。
すると煌々と燃えていた炎の勢いは弱まっていった。
一方の俺も地面に激突する直前で水を操り無事に着地を成功させる。
「(夕飯時に水分いっぱい取っといて良かった…)」
そんな呑気なことを考える暇はないかと俺は両頬を叩き一括入れる。
そして微かに聞こえる物音や感じる人の気配を頼りに足を進めた。
その時、マンダレイのテレパスを受信する。
《A組B組総員───プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて戦闘を許可する!!》
「!」
マンダレイからの知らせに思わず目を丸くする。
あの相澤先生がこんな手段を取るなんて想像もつかなかったけど…俺たちを信じての判断だと言うことはすぐに理解出来た。
雄英のみんなは強い!
きっと大丈夫。
《敵の狙いの一つ判明────!!生徒の“かっちゃん”!!わかった!?“かっちゃん”!!》
緑谷以外の人から爆豪が“かっちゃん”だなんて呼ばれてる光景、きっと普段の俺なら爆笑してしまってるだろう。
だけどくすりとも笑えないくらい緊迫した状況で…きっとそれはみんなも同じだと思う。
《あと───“青髪の子”。名前は把握出来なかったけど恐らく“ハル”の可能性が高いとのこと》
「(青髪……改めて考えてみるとA組にもB組にも俺以外に思い当たるやついないな)」
《“かっちゃん”と“ハル”はなるべく戦闘を避けて!!単独では動かないこと!!》
マンダレイのテレパスを聞いて洸汰から借りたキャップのつばを持つと深くかぶり直す。
確かに狙われている状況下で単独行動は避けて施設に戻って相澤先生達にフォローしてもらうべきだ。
だけど、俺は皆を護りたい。
“温冷水”も“譲受”も誰かを救ける為にある力だ。
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