◎ 僕のヒーロー(5/5)
「!!ダメだよ!!そんなことしたらハルが────」
「わかってる」
「!」
「緑谷がそういうのわかってた」
俺は緑谷の手を握りしめると真っ直ぐ見つめた。
「だけど…このままじゃ腕動かなくなってヒーローになれなくなるぞ」
「!!」
ずっとヒーローに憧れてきた無個性の少年が憧れの人から力を授かりヒーローを目指す、まさにコミックのような出来事。
そんな奇跡みたいな話…完結する前に打ち切りなんてありえない。
「……緑谷も俺の過去見たんだろ?」
「あ……」
「ヘドロ事件で心動かされたのはオールマイトだけじゃない。…あの絶望から救ってくれたのは緑谷もだったんだよ。俺はまだその“希望”を失いたくない…頼む……!」
そう告げた瞬間、緑谷の目から涙が溢れる。
それを見て俺の目頭も熱くなったけどぐっと堪えた。
俺は近くにいた洸汰に自分が気絶したらどんな手を使ってもいいから起こしてくれと頼むと舌を噛まないよう着ていたパーカーのフードを口にかますと改めて緑谷の手を握り直した。
「俺も死ぬ気ないから…大丈夫」
「……ごめん…っ。ありがとう…!」
繋いだ手から光が溢れる。
耐え難い痛みが俺に襲いかかってきて、それをなんとか堪えるためにフードを噛む力を強めた。
ある程度怪我を“譲受”すると俺は手を離して緑谷の様子を伺った。
体力的にも完治させるのは難しかったため、最悪の事態を免れられる範囲で譲受することにした。
結果、腕は満足に動かせないものの感覚は戻ってくるまで回復させることができ、俺は安堵の息を吐いた。
「……おまえ…顔真っ青だぞ……!?」
「…ヘーキヘーキ!」
心配してくれる洸汰に笑いかけながらポンポンと頭を撫でた。
問題はここからどうするか。
まず最優先事項は洸汰の保護。
施設まで3人で向かうべきだけど、森は火がつけられていて中には閉じ込められている人がいるかもしれない。
それに…他のみんなが緑谷が戦ったレベルの敵と遭遇しているとしたらかなり危険だ。
俺なら水の個性を持ってる。
怪我をした人の治癒も出来なくない。
今取るべき最善────
「…俺は森に戻って皆を援護する」
「!何言って…!?あいつかっちゃんと青髪の子を探してるって言ってた…君も狙われてるかもしれないんだよ!」
「俺の髪、青髪っていうより黒に近い藍色だから違うかもよ?」
「でも……!絶対ダメだ!!」
「じゃあー…こうする」
俺は着ていたパーカーのフードを被るとニッと笑う。
「これなら髪も顔も隠せるだろ?」
「そんなの戦闘が始まればすぐに脱げるよ!ってそうじゃなくて……!!」
「緑谷。俺が動けば救けられるなら動かない訳にはいかないだろ」
「!」
「それに名前出てたのは爆豪だけで俺はまだわかんないんだろ?大丈夫大丈夫」
「だけど────!」
すると洸汰は被っていた帽子を脱いで背面のベルトを調整したかと思うとしゃがんでいた俺に近づき、何も言わずその帽子を俺の頭に被せた。
何事だと思っていると眉間に皺を寄せて心配そうな表情を浮かべながら真っ直ぐと俺を見つめると洸汰は言った。
「それ…お気に入りだから絶対返せよ…!!」
「洸汰くん…!」
「……わかった。約束な」
俺が笑って小指を差し出すと小さな小指をそっと絡めてくれた。
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