◎ Re:オリジン(3/4)
事件から時は流れて中学三年生の秋。
ヒロを探すことも無実を証明することも現実的ではないと諦めた俺はヒーローから距離を置いた。
日中は学校に通って、夜は部屋にこもってゲームをしていた。
平凡だけど不満のない日々。
そんなある時、ばあちゃんが俺に言った。
「…ハル、おばあちゃん考えたんだけどね。やっぱりヒーローをもう一度目指してみないかい?」
「!」
「ヒロくんや幸ちゃんのことは…おばあちゃんも許せないよ。だけど、ヒーローのみんながみんなそうじゃない。おじいさんやハルのお父さん、オールマイトだって…最高のヒーローだった」
花府事件の少し前。
ちょうど季節が夏にうつり変わった時に病気でじいちゃんが亡くなった。
悲しいはずなのにばあちゃんはいつも笑顔で俺のことも見捨てずにいつも寄り添ってくれていた。
「…………」
「一部の未熟なヒーローを見て絶望するにはもったいないよ。ハル、あなたにはこの社会を変える力がきっとある。もっとたくさんの世界を見て、たくさんの人に触れてきなさい。そうすればおじいさんが教えてくれたこと、幸ちゃんが残した想いがわかるはず。そしてそれが…いつかきっとヒロくんにも届くはずよ」
ばあちゃん、俺も知ってたんだ。
世の中には父さんやオールマイトみたいな最高なヒーローはたくさんいること。
始まりはあの大きな背中。
あの背中に追いつきたくて俺は目指したんだ。
「すまない。急に呼び出してしまって」
「ううん。暇だったから大丈夫だけどどうしたの?オールマイト」
「……これを見て欲しい」
「(スマホ?動画か……)」
その年の春頃に起こったある敵襲撃事件の映像。
無個性でなんの力も持たない俺と同い年の男の子が、友達を救けるために身を呈して敵に飛び込んでいった話。
野次馬たちはバカだと罵る中、少年は涙を目にうかべながら笑って言った。
《君が救けを求める顔してた》
何も省みずただ───純粋に、真っ直ぐに、目の前の人を救けようとする“正義”がまだ残っていることを想起させる一言。
「………っ」
そのたった一言が俺を救ってくれた。
「困っている人がいれば損得関係なしに手を差し伸べる。余計なお世話ってのはヒーローの本質だ。まあ彼は策もなく飛び込んだから無謀と言われても仕方なかったが……しかし、あの場の誰よりもヒーローだった」
目頭が熱くなる。
行き場の失くした雫は頬を伝ってゆっくりとこぼれ落ちていった。
「彼も今ヒーローを目指して頑張っている。彼だけじゃない。他にもナチュラル・ボーン・ヒーローの心は受け継がれ、新たに芽吹き始めている!」
荷物整理してた時に父さんからもらったゴーグルを捨てられなかった。
日課になっていた早朝のジョギングや学校終わりのトレーニングもやめられなかった。
何もせずに終わらせて諦めがつくほどちっぽけなものではなかったんだ。
「来いよハル少年!君もその一人だろう」
結局俺には────
どうしようもないくらい“ヒーロー(これ)”しかなかった。
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