◎ 過去を喰らう(5/6)
直後に強烈な熱気を感じたかと思うと周りが光に包まれて視界を奪われた。
次に目を覚ました時には白い天井がそこにあって、包帯に巻かれ、管を繋がれた俺は身動きを摂ることが出来なかった。
意識が戻り診察を受けた後、警察から事情聴取が始まった。
その時に衝撃の事実を耳にした。
「死者10人…負傷者40人…!?」
敵による人質事件の後に爆発事故が起こっており、想像を遥かに超えて被害が甚大だったことに俺は驚きを隠せなかった。
だがそれに追い打ちをかけるようにその事故のの原因がヒロの個性“オーバーヒート”により体内から発生した熱がガス管に引火したことであるとヒーロー側から話があがったこと。
そしてヒロは事件以降行方がわかっておらず、事件に関与したことにより逃走していると見て、警察はヒロを重要参考人として手配をしていることを耳にする。
「ヒーローって……あの場にいた…?」
「ああ。会場の警護を担当していたボルイング事務所さ」
「爆発事故前の人質事件では…ボルイング事務所は適切な対応を行っているように見えませんでした」
「………具体的には?」
「敵への対処法の探索、人質の安全確保…対応できる個性持ちがいないからと彼らはそれで諦めて突っ立っているようにしか見えませんでした!それはプロヒーローとしていかがなものでしょうか…!」
怒りが腹の底から込み上げそうになるのを抑えながら俺は警官へ問いかけた。
すると警官は俺を見ながらため息を吐くと続けた。
「…報告では対応する前に一般人が飛び込んだため動けず結果その一般人は犠牲になったと伺っている。それに…君も“個性”を勝手に使用したと聞いているが……処罰は免れないよ」
「!?なっ────」
「君の言いたいことはわかる。だが規則は規則。君にも然るべき罰は受けてもらわなければならない」
あのままだと人質の男の子は殺されていてもおかしくなかった。
何故指をくわえて突っ立っていたヒーローにお咎めはなく、身を呈して飛び込んだ幸や俺らを護ってくれたヒロ、そして“個性”を使ってしまったけど二次被害を抑えた俺が叩かれなければならない?
主張を繰り返しても覆らない現実に怒りと絶望が襲いかかる。
《大量の死傷者を出した花府花火大会事件。現在行方不明の少年を重要参考人として警察は捜査してます》
「あの重要参考人って……花府中学の温田正弘くんのことらしいわよ…」
「妹さんは人質を庇って亡くなったとか…可哀想に…」
「…可哀想だけどその場にはヒーローがいたんでしょ?ヒーローに任せておけば全員無事だったんじゃないの?」
《我々の管理不届きによりこのような事件を招いてしまい申し訳ございませんでした》
《ボルイング事務所のヒーロー達は対応しようとしてたんだろ?でも一般人が邪魔したとか……噂になってるんスけど本当スか?》
《ボルイング事務所は悪くねーよ。悪いのは勝手に“個性”暴発させたやつだろ》
《潔い謝罪に好感だ。これからボルイング事務所の皆にはまた頑張って欲しいよ》
世間もマスコミもヒーローの味方。
困った人を一番に救うのがヒーローだと思っていた。
そんなヒーローになりたかったのに……。
「…あはは……なんだこれ……」
適当に笑顔を振りまいて派手な個性を見せびらかしておけば評価されて、本当に救いが必要な人なんて無視で良くて、都合が悪くなれば他人に責任を押し付ける。
なんだ……ヒーローってそれで良いのか。
「………やめだ。やめ」
そしてこんなヒーローが支持されている盲目な社会が気持ち悪くて吐き気がした。
prev|
next