◎ 過去を喰らう(1/6)
プロヒーローとして働く父親と音楽活動をしている母親の元に生まれてきた。
兄弟はいなくてひとりっ子。
両親の愛情を受けて育った俺は父さんの人々を救ける姿に憧れてヒーローを志した。
この社会ではよくある光景で、そんな友達が周りに何人もいた。
個性“譲受”の発現により、その夢への道は険しいものとなったが、父さんは俺の背を押してくれて、母さんはそんな俺を支えてくれた。
だけどそんな日常は4年前に崩れ落ちた。
「水科くん!お父さんが───…」
小学生6年生の夏休み前の出来事。
授業中、真っ青な顔で入ってきた先生から告げられたのは父さんがヒーロー活動で会敵し、瀕死の重体になっているという知らせ。
慌てて病院に向かうとたくさんの管に繋がれ、傷だらけになって眠る父さんの姿とそれを見守る母さんの姿。
母さんは俺を見るや否やギューッと抱きしめた。
「……愛してるわ、ハル」
「母さん……?」
突然告げられた言葉の真意を聞く間もなく病室から出されたかと思うと少しして聞こえてくる父さんの声。
「(よかった。父さん目が覚めたんだ…!!)」
そんな喜ばしい気持ちはすぐに消え失せた。
ベッドの傍らで顔を伏せる母さんとその手を握り、涙を流しながら声をかける父さんの姿。
「なあ…なあ…!目を開けてくれ千春…!!」
「…………」
動かない母さんと傷が治っている父さんを見て全てを悟った。
父さんの傷を“譲受”した母さんはもう────
「…遅くなって…君を救けられなくて……すまなかった…」
「…………オールマイト、止めてくれ。全部……全部俺の弱さが招いた結果だ……」
「!」
「俺が強ければ……あんな怪我を負わなければ千春は………!……何故俺が生きている!?弱い俺がなんで……護りたかった者の命を奪ってまで…何故俺は生きているんだ…!!?」
「……………」
俺は父さんに笑顔になって欲しかった。
「おはよう、父さん。ご飯作ったけど食べられる?」
「……おはよう、ハル。………申し訳ないけど、父さん後で食べるよ。ハルも学校に遅刻しないように早く行きなさい」
「…わかった」
いつもと変わらない生活を送れば取り戻せると思った。
俺が変わらず接していればきっと…父さんはまた笑ってくれると思った。
だけど────
「オールマイトか。いつもすまない…ありがとう」
「!(今日も電話してるのか。邪魔にならないように部屋に行くか────)」
「………もう駄目かもしない。ハルを見ていると千春を思い出すんだ…忘れようと思ってもあの子の顔を見る度にあの時の気持ちが押し寄せてきてどう接したら良いかわからないんだ……!」
「………」
よかれと思ってしていた俺の行動は全て父さんを苦しめてしまっていた。
何が思いやりだ。
相手の気持ちを考えずに押し付けられるだけ押し付けて……
「(俺の存在が……父さんを苦しめてたんだ)」
もうこれで最後にしなくちゃ。
「父さん。ごめんね。話があるんだ」
「……どうしたんだい?ハル」
辛いくせに優しく笑う。
そんな優しさが俺に突き刺さる。
「父さん仕事で海外行きの話をオールマイトとしてたよね」
「!…ああ。でも断ろうと思って────」
「もしも俺が理由なら大丈夫だよ」
「!」
「俺は大丈夫。家事も一人で出来るし、一人でも生活できる。俺も中学生になったらやりたい事するから父さんもしたいこと我慢しないでやろうよ。俺なら大丈夫だから」
きっと俺たちは一緒にいない方が良い。
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