◎ 狼煙(4/4)
「!」
何故自分の名前を知っているのか、それを聞く前に身体に悪寒が走ったかと思うとハルの脳を直接弄られるような、そんななんとも奇妙な感覚に襲われる。
「ちょっと失礼」
「っ!!?」
何が起こっているのかわからないがこの違和感はコシュマールと会敵してから起こった。
つまり何かの“個性”の類と考えるのが普通で“個性”ならば必ず発動条件が存在する。
一か八かかけてハルの個性“ドライアイス”を自身とコシュマールの間に発現させて視界を切ると弄られるような感覚はなくなった。
だが違和感がまだ残っておりハルは頭を抱えながら警戒を強めた。
だがコシュマールはすぐに手を出すことをせずに嬉しそうに笑うとハル目掛けて言った。
「全部は見きれなかったか……でも想像通りおまえなかなかいいモン持ってんじゃん!」
「(何のことだ…?)」
「母親が死んでから父親に捨てられて、ヒーローに裏切られたかと思えば今度は親友の一人は死に、もう一人は行方不明だなんて───小説書けそうなくらい壮絶な人生だな!」
「!!!」
目の前の発現していたドライアイスの壁が切り刻まれていく。
その先にはコシュマールが立っていて、ガスマスクで覆われて顔は全く見えないはずなのにハルは自分の過去を言い当てられたからか全て見透かされているようなそんな不気味な感覚に襲われる。
「経験上、過去に何かあった奴はわかるんだよな。目付きが違う」
「…………なんで…」
「“なんで”?てことは……この過去誰にも言ってないんだ〜へえ…」
「!」
「んじゃあおまえが隠してきたこの惨めな姿、晒しあげてやるよ。よかったなー」
「やめろ……」
「友達に隠し事はダメだろう。ハル」
「
やめろ!!!!」
口からmicroSDカードのような物を吐き出すと腰に着けていたラジオの様なものに挿入する。
そして電源を入れた瞬間、言葉にしがたい高いモスキートーンのような音が鳴り響く。
次の瞬間、衝撃的な光景が頭に浮かんだ。
◇
「!」
「なんだこの音……!!?」
突然頭に流れてくるのは幼い男の子が一人、広い部屋に立ち尽くす姿。
「何これ……!」
「うっ…」
夜空に爆弾のように咲き開く花火。
そんな綺麗な景色とは裏腹に少女の腹に突き立てられたナイフと無数の傷跡から溢れて地面に広がる赤い海。
泣きながら人々の喧騒と花火の爆発音に負けないくらいの叫び声をあげる少年の姿。
「……はァ?」
「もしかして───」
冷たくなっていく少女をだき抱え、叫ぶ少年をただ泣きながら呆然と見つめる少し幼い彼の姿。
「……ハル…!?」
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