◎ 個性(5/6)
「!おまえも知ってんのかよ…!!」
「(おまえもってことは…緑谷もあれから洸汰と話したのか)」
俺の知る限りでもウォーターホースは立派なヒーローだったし、水を操る“個性”を使って人々を救けて来た。
だけどその“個性”を持ってしても……1人の敵によって殺されてしまった。
洸汰からしたらウォーターホースの“個性”は敵から自分自身を護れないほど脆弱なものにみえていて、同じような“個性”を持つ俺に対して、そんな“弱い個性”を何故強化しようとするのか意味がわからないのかもしれない。
「頭イカれてるよみーんな。馬鹿みたいにヒーローとか敵とか言っちゃって殺しあって。“個性”とか言っちゃって……ひけらかしてるからそうなるんだ」
「……そうだね」
「………は?」
まさか俺の口からそんな返答が返ってくることを予想していなかったのか、目を見開き驚き表情で洸汰は俺を見つめる。
「“ヒーロー”も“敵”もいらない。あえて区分して、そんな呼び方するから息苦しくなるんだ」
「!」
「人によって思想も境遇も違うのに正義と悪なんてどう定義すんだ?さっきの奴しかり俺は誰かにとってのヒーローである反面誰かにとってはヒーローじゃない。なら敵も同じだろ」
ふとヘルパットの言葉が頭によぎる。
「……洸汰は“個性”なんていらないって思ってるんだよな?」
俺は洸汰に近づき視線の高さがあうようにしゃがむ。
初めてちゃんと目が合った気がするな…。
「そ…それがなんだよ…」
「じゃあ───俺が洸汰の“個性”奪ってやろうか?」
「!」
手を伸ばそうとした時、洸汰はバッと後ろへ下がる。
その様子を見て俺は笑うと両手を上げてなーんてなと言い、謝りながら立ち上がった。
だけど洸汰は俺に相当警戒していているのか近づいこようとしない。
ちょっとやり過ぎたかなとも思ったけど…これでわかった。
「洸汰」
「!」
「見ててな───」
俺は“個性”で水を出現させるとふわふわと宙に浮かせつつ窓の側まで近づく。
何するつもりだと言わんばかりにちらちらと興味を示している洸汰を確認するとシャボン玉が弾けるように細かい飛沫を飛ばしながら浮いた水の球を弾けさせる。
するとその雫が夜空と月に照らされてきらきらと輝き神秘的でやってみた本人の癖して感動してしまうほどのもの綺麗だった。
洸汰を見ると目を見開いてその様子を見ていたみたいだけど、俺と目があった瞬間それを悟られないようにぷいっと顔を逸らした。
「…………さてと、もう寝よっか」
「…………」
「怖いなら送って行ってやろうか〜?」
「!いらねーよ!来んな!!」
ニヤッと笑う俺を睨むと洸汰は自室へと帰って行った。
俺はその背中を見て小さく笑みを浮かべると窓を閉じて大部屋へと戻って行った。
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