◎ 個性(3/6)
「何が“個性”だ…本当…下らん…!!」
だがそんな中、一人離れてその様子を煩わしそうに見つめる洸汰の姿に緑谷は気づく。
だが緑谷が声をかけようとする前に洸汰は一人でどこかへ行ってしまった。
「………」
「気になるの?」
「うわあ!?ハル!」
「びっくりした?」
気配もなく後ろに立たれて驚く緑谷にハルは悪戯っぽくにししと笑みを浮かべる。
そんな二人の視界の先には洸汰の背中。
「あのさ…ハルが昨日言おうとしたことって結局なんだったの?」
「昨日?」
「洸汰くんが憎まれ口叩く理由、とか…」
「あー…」
するとハルは洸汰から視線を逸らして空を見上げる。
そして何か意を決したかのように緑谷を見つめた。
「…俺が思うに洸汰は気づいて欲しいからだと思って」
「気づいて欲しい?」
「…………あの子が抱えた痛みはきっと同じ思いをした人以外わかってあげられない。それは洸汰自身も理解してるし、きっと共感されて傷の舐め合いがしたい訳でもないと思う。ただ───自分の大切な人を奪った“個性”とか“ヒーロー”とか…“超人社会”が正当化されることが許せないんだよ。だから…そう思ってる人がいることに気づいて欲しいのかなって」
ハルは緑谷からまた視線を移し空を見上げた。
そんなハルから感じる今にも消えていなくなってしまいそうな儚さに緑谷は思わず息を飲んだ。
「…………(僕には…)」
ハルが言ったことは理解が出来たけど、その考えは思いつかなかった。
僕にとって“ヒーロー”は憧れの存在で、“個性”はヒーローが困った人達を救けるための手段だと思っていたから。
だけど……確かにヒーロー殺しの一件で“個性”を使えば簡単に人を殺めることが出来ることを肌で感じた。
それに“ヒーロー”だって…
「オールマイトも救けられなかった事はあるんですか…?」
「…………………あるよ。たくさん」
きっと完璧な存在ではない。
「!」
緑谷はハルの手をガシッと掴む。
どうしたと笑うハルとは打って変わって真剣な表情で言った。
「ハルは僕を護るって言ってくれた…あの言葉は嬉しかった。だけど…その───僕だって君の力になりたい!」
出会ってから様々な場面で救けられてきて、いつも笑顔でそつ無くこなしてしまう姿を見て完璧な人だと思った。
だけど、君も僕らと変わらない同じ歳のヒーローを志す一人。
「俺じゃ役不足かもしれないけど…サポート出来るところは頑張るよ」
「…調整出来ないなら他に“今”出来ることを考えろ」
「危な…っ!」
「緑谷、俺をチームに入れてくれないか?」
「緑谷…!!」
「いつつ……」
「脱出ゲート向かって走れ!!」
今まで頼りっぱなしでごめんね。
これからは僕も……
君の隣を歩きたいんだ。
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